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入学式
明日の入学式が楽しみで、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。
ふわふわのベッドは大胆な寝返りにも耐えられるように、大きめのセミダブルのベッドにし、布団は軽くて暖かい最高ランクと言われるポーランド産ホワイトマザーグースダウンを使用した羽毛布団を購入した。
それでも、夢への一歩となる入学式に期待と不安でいっぱいだった。
窓辺のレースのカーテンが薄らと明るくなって、朝の訪れを感じる頃に目が覚めた。
時間はまだ6時を過ぎたばかり、ベッドから起き上がり軽くシャワーを浴びて、朝食の準備をした。
これまで料理などしたことはないが、昨日スーパーで買った食パンをトーストしインスタントのコーヒーを入れた。
たったそれだけの朝ごはんでも、自分で用意したとなると格別に美味しく感じた。
食べ終えた食器を食洗機に入れて、スイッチを押す。
食後の歯磨きを済ますと部屋で新しいワイシャツに腕を通した。
ソックスとズボンを履いてベルトをし、ネクタイを選んだ。
3本のネクタイはこの日の為に用意した物で、今日の気分でブルーのストライプのネクタイに決めた。
結び方はスーツをオーダーした店で丁寧に教えてもらった甲斐もあって、バランスよく結べた。
鏡に写るいつもと違う自分にしばし見惚れた後、入学式へ出席する為に部屋を出た。
受付を済ませ、学部毎の席へ着席すると直ぐに式は始まった。
式次第に則り粛々と進む中、新入生代表の名前が読み上げられた。
「新入生代表、布木 侑星」
広い会場の真ん中から、壇上へ向かって歩き出し階段を登るほっそりとした美丈夫は、紛う事なくアイツだった。
学生服より、数段スタイリッシュで柔らかな髪を軽くウェーブさせ、紺のスーツを身に纏ったアイツは誰もが見惚れるほどのイケメンだった・・・・・
アイツが合格したという事実よりも、新入生代表という事は明らかに俺より上位で合格したという事がショックだった。
誇らしげな顔にいつもと同じように、柔らかな微笑みを浮かべ、甘い低音ボイスで新入生代表の挨拶をそつなくこなした。
会場は水を打ったように静まり返り、アイツが喋り終えたと同時に満場の拍手が沸き起こった。
周囲からは口々に感嘆と賛辞の言葉が向けられ、アイツは頬を薄らとピンクに染めて席へ着いた。
振り向くと俺の直ぐ後ろにアイツは座っていた・・・・・
振り向いた俺にアイツはにっこりと笑った。
その瞬間、俺の心臓は大量の血液を一気に脳へと送り込んだ。
慌てて正面を向いた俺はその後の事はまるで記憶にないまま、いつの間にか入学式は終わっていた。
マンションへ帰って、服を脱ぎネクタイを外してワイシャツを脱いだ。
ソファに腰掛けてさっき迄の記憶を再生させた。
嫌いだと思っていたアイツと大学まで一緒になった事が信じられなかった。
今度こそアイツとの縁も終わるだろうと信じ込んでいたのに・・・気がつけば、アイツが合格した事を嬉しいと微かに思っている自分が居た。
嬉しいわけなどない筈なのに・・・・・アイツの姿が脳裏に浮かぶ。
一体自分はどうしたのだろう、今後一切アイツに振り回されたくないと思いながら、帰ってからずっとアイツの事ばかり考えていた。
その時玄関のチャイムが鳴った・・・・・
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