隣人はまさかの彼だった

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隣人はまさかの彼だった

あの日、彼に呼び出されもう二度と彼のことは考えないと決めた筈だった・・・・・ 酷い言葉で泣いたはずが、彼から浴びせられた言葉の数々は自分を意識していたとしか思えなかった。 小学校から中学、高校と一緒だった事を彼は彼なりに覚えていてくれた。 とは言われてもだと言われなかった。 そんな勝手な言い訳で自分を納得させた。 同じ大学だと分かった以上、どうしても合格したかった。 彼の側で声を聞けるだけでいい、同じ教室で講義を受けて、同じ事を学んでいく悦びがこれからも続くなら絶対合格してみせる。 彼の受験番号をこっそり調べ、合格発表を待った。 発表当日、彼も自分も合格した事がわかった。 これで、これまで同様彼と同じ教室で学ぶことができる。 入学式迄にやるべき事を済ませ、引っ越しの準備をした。 マンションは大学近くの新築マンションで、セキュリティのしっかりしたところを条件に探した。 彼の住まいまでは分からないが、大学が同じなら顔を見る機会はいくらでもあるだろう。 入学式当日、スーツ姿の彼を見かけこっそりと後ろの席に座った。 背が高く体格のいい彼はスーツがとても似合っていた。 彼の後ろ姿を見ながら式は進み、新入生代表の挨拶で名前を呼ばれた。 前日に電話で依頼されて、その日のうちに考えた挨拶を淡々と読んだ。 挨拶が終わって席に着いた瞬間、振り返った彼の視線が痛いほど睨みつけていた。 彼が言った、嫌いだという言葉が脳裏を駆け巡る。 マンションへ戻っても、気持ちは落ち込んだままだった。 それでも、引越しの挨拶に用意した物を届ける為に隣の部屋のチャイムを押した。 空いたドアから出てきた隣人は・・・・・驚いた事に彼だった。 顔を見合わせ、二人同時に驚きの声を上げた。 彼の「ストーカーか?」と言う言葉に気づくこともなく、隣人としての挨拶をし粗品を渡した。 彼が自分の言った言葉を謝ってくれた事で少しだけ気持ちが軽くなった。 彼から「お互い頑張ろう」と言われて、一緒にいても嫌ではないと言われたようで、それだけで明日からの授業が楽しみだった。 たったそれだけの言葉なのに・・・・・「嫌いだ」と言われるよりはまだマシだと自分を励ました。 彼がいつか自分の気持ちに気づいて、自分だけを見てくれる事を願った。 彼への恋心を秘めながら、少しでも好きになってもらえるまで辛抱強く待つ、そう心に決めて明日からの学生生活に希望を膨らませた。 壁一つ隔てただけの空間に彼が居ると思うと、微かな音にも胸がときめき、まるで一緒に暮らしているような淡い妄想が膨らんだ。
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