妖精は無邪気で残酷ですが縛りは多し

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妖精は無邪気で残酷ですが縛りは多し

  だだっ広いセントラルパークについての地図は、監禁されている乃三花の気持を解すどころか、何処までも続く監禁生活を想起させるばかりであった。  一日で見回り切れない場所を全踏破できるのが早いか、無理難題を解決出来る方が早いのかと、気分転換のはずが思い悩み鬱化するばかりである。  せっかくセントラルパーク名物の馬車に乗って園内周遊の旅をしていても、乃三花の気持は晴れるばかりか落ち込むばかりだ。 「よりにもよって新婚さん専用周遊コース選ぶとは。あなたが私をどういう目で見ているか今日はとことん話し合おうか?」 「馬車だ乗りたいって騒いだ人を優先したらこうなったんだよ」 「あ、じゃあ。明日はスミソニアン博物館に行かない?ブルーダイヤが本当に人に不幸を呼ぶ宝石なのかアダムに聞きたい」 「栄華を極めた人間は、あとは落ちるだけなんだよ。そういうこと」 「――あなたが誰かに破壊されたように?で、どういう状況だったのか、本当のことを教えてくれる?」 「ほ、ほら。そんな事は良いから、もっと楽しもうよお」  水色のポロシャツに白いジャケットを羽織った美青年は、その美貌を隠すどころかさらに目立たせるサングラスを掛けた顔で乃三花にニカッと笑った。  顔が良い顔が良い顔が。  念術のように頭にこだまする自分の声が煩い。だが、この状況になるまでの二時間前を考えれば、思考が止まるのは良いことだと思った。そこで乃三花はアダムの顔の良さに感謝はしたが、彼自身にはいつものようにうんざりした口調で答えていた。  結局は自分のこの現状はアダムが招いた事なのだ。 「あなたはいつでも楽しそうでいいわね」 「楽しいよ。お洋服も新品だ」  アダムは背もたれに大きく沈むと、新品のベージュ色のスラックスとスリッポンが見えるように長い足の膝を持ち上げた。  私はこの長い足が何もつけていない時の素晴らしさを知っている!!  手と足に関してはイラストを参考に出来なかったので、手モデルや足モデルなどの画像を漁り一番気に入った手や足の形にして仕上げたのだ。  けれど、私は指には球体関節を仕込まなかった。  アダムが消えた人形は、私の手を握ったりしなくなるのね。  ぱちんと乃三花の目の前でアダムは指を弾く。  そうして自分に乃三花の意識を戻した男は、サービスと言う風にサングラスをずらして青紫の宝石の中で桜が咲いたような美しい瞳を乃三花に見せつけた。 「ほら、わんわんも散歩を大いに喜んでいる」  乃三花は馬車の周りに視線を動かす。黒スーツな青年達が馬車の周りを囲んで駆け足をしている。その姿は誰の目にも、乃三花達の護衛として馬車の周囲を囲んでいるとしか映らない姿であろう。 「もっとスピード上げてもらう?」 「あなたは意地悪ね」 「犬の躾は最初が感じでしょ」  アダムは軽薄そうに言い切ったが、乃三花は彼が黒服達にとても怒っていることを知っている。馬車の周りを走る男達をその気になれば殺してしまえることも。  服屋に向かった乃三花達に護衛として付いてきた彼らだが、アダムが試着室に入った瞬間に、彼等のリーダーである男が乃三花に襲い掛かったのだ。  ジョーンの甥であり、マクフェンリー一家の若頭であるダリオである。  彼は乃三花の頭を両手で掴み、彼女の首を折ろうとした。  その瞬間、ダリオの真後ろにアダムが現れ、犬にするようにアダムはダリオに声を上げた。 「契約違反だ!!」  乃三花は妖精が受けている縛りの強制力を初めて知った。  アダムのたった一言でダリオの心臓は動きを止めたのである。  信じたくなくても信じるしかない。  さて、そんな死んだはずのダリオがまだ生きているのは、乃三花の機転のお陰である。 「違反してない!!まだまだしてない!!」  それでダリオが息を吹き返すなんて本気で茶番だと、乃三花は憐れなダリオ達を見つめる。  生き残ってしまったからアダムの玩具にされて可哀想に、と。  彼等の首には犬に嵌めるような首輪が嵌っている。  その首輪にはリードの代りに緑色の蔦が絡みついており、アダムの右手がその蔦を使役しているのだ。  つまり彼らは言葉通り、アダムの手に生殺与奪権を握られてしまった。  そしてアダムはこの二時間近く、彼等を引きまわして喜んでいるのである。  妖精の残虐さ、ここに発揮される、である。
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