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ヤクザ風2人の背後に立つ女性――蓬莱澄香は、そんな2人の様子を見て、内心「やれやれ……」と苦笑していた。
……木暮のやつ、誰かを吐かせようとする時は、いつもこうだからね。好きなヤクザもの映画の影響でも受けてるのか、こういうセリフを言う自分に酔ってるようなとこがあるのは困りものだわね。まあ、痛めつけて吐かせる手管は見事なもんだから、好きにさせてはいるんだけど。
それに引き換え東の方は、相手を吐かせる必要があるってのに、てんで口数が少ないからな。問い詰めるのは木暮に任せっきりで、自分はひとっ言も喋らない。睨みを利かせる役目だってことなんだろうけど、もう少し言葉で脅してもいいだろうに。まあ、コンビで働かせるとすれば、いい組み合わせだと言えるのかもだけどね……。
唇を腫らした男は、木暮の口上を聞き終え、「ふっ」とため息を漏らし。目の前にいる木暮と東に向かって、履き捨てるように言い放った。
「あんたの言う通り、俺がここで喋ろうが喋るまいが、俺の命はここで終りってことなんだろうがな。だったら俺は、喋らない方を選ぶよ。こんな目に遭うのは、元々覚悟の上だ。とことんまで痛めつければいいさ、俺とあんたの、我慢比べだな」
恐らくはそれが、すでにここまでさんざ痛めつけられ、この場から逃げることも叶わぬと察した男――安岡栄一の、いま出来る精一杯の「強がり」なんだろうなと、澄香は考えていた。
「我慢比べとは笑わせるぜ。お前、自分がどんな立場なのかわかってるのか? それとも、俺とこいつが苦しみもがくお前を見て、それ以上の苦痛を与えるのを躊躇うような、ヤワなタマだとでも思ってるのか??」
木暮は、黙って拳銃の先を安岡に向けている東を指差しながら、そう言って安岡に「ずいっ」と詰め寄った。しかし明らかに疲弊した表情の安岡も、そんな木暮の射るような視線に、一歩も引かないという態度をむき出しにしている。
まあ安岡も、組の金を持ち出してトンズラ決めようとしたほどの輩だしな。そう簡単に、口を割ることはないと思ってたけどね……。
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