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 その男は、腫れあがった唇の端に血を滲ませ、苦悶に満ちた表情で、目の前にいる人物を睨みつけていた。男の目の前には、黒いスーツを着込んでサングラスをかけた、「いかにも」な風体をしたヤクザ風の男が2人。壁にもたれかかるようにして座り込んだ男を、ヤクザ風の男2人もまた目線を合わせるように、しゃがみこんで男を見つめていた。  ヤクザ風の2人の背後には、スラっとした細身で長身の女が、微動だにせず立ち尽くしている。唇の腫れた男を痛めつけるのは、ヤクザ風2人に任せて、女の方はただそれをじっと見守っていた。この状況から察するに、まだ30代かと思われる若さであり、美人と言ってもいい整った顔つきをしてはいるが、この女がヤクザ風2人の「ボス」ということなのだろう。 「……さあ、そろそろ吐いちまえよ。別に俺たちだって、お前を殺したいと思ってるわけじゃない。ただ、お前の知ってることを聞きたいだけだ。もちろん事と次第によっては、お前の命を奪うことになるかもしれんが。まずは金の在り処を白状するのが先だ。素直に言うことを聞いてくれれば、これ以上痛い目に遭わなくて済む。どうせ死ぬんなら、ひと思いにやって欲しいだろ?   お前が口を割らない以上、俺たちはあんたを殺すことなく、延々と痛め続けるからな。そんな思いはしたくないだろ? 俺たちも決して、人が痛めつけられるのを見て喜ぶような、サディストじゃないんだ。ただ目的を達成するための最適な手段として、拷問という方式を用いているだけであって。目的が達成されれば、その手段も取る必要はなくなる。わかりやすいだろ? つまり、かいつまんでいえば。1分でも、1秒でも速くゲロしちまった方が、お前の身のためだよってことだ」  しゃがんだ男から見て、向かって右側にいるヤクザ風の男がそう言い終わると。左側のヤクザ風は、対照的にひと言も発しないまま、手に持った拳銃の銃口を、改めてしゃがんだ男の顔に突きつけた。
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