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忘れていた大事
火曜日の仕事帰りだった
大きな音がして空を見上げたら
綺麗な花火が花開いていた
道路脇に黙って立ち眺めていた
もう何年も花火なんか見てないなと
ふと思った時に
急に声をかけられた
「あの もしかして かなうちゃん?」
見知らぬ男性だった
不思議な顔をしていたら
「あ 僕だよ 求もとむだよ」
頭の中に一気に記憶や想い出が溢れた
彼は私の幼なじみの弟
近所に住んでいた光あかり君
光あかり
求もとむ
告つぐ
男の子の三人兄弟だった
私はずっと光の隣に居た
保育園からだな
小学生になった頃から
私は名前でからかわれる事が増えた
光は黙ってそばに居てくれた
守るとか庇うとかでは無く
ただ隣に居て微笑んでくれた
私にはそれが心地好かった
3年生になった春の終わり
珍しく光が照れながら
私を花火に誘ってくれた
お婆ちゃんの家の庭から
凄く綺麗に見えるからさ
おいでよと
その夏の花火はホントに綺麗だった
両親と眺めた花火は
唯一の花火となった
庭先で光が優しい笑顔で言った
「来年もさ 一緒に見ようね」
私は笑顔で喜んでた
でも二度と花火を見る事はなかった
私が立ち尽くして泣いていたら
求がごめんごめんと抱きしめてくれた
「久しぶりにこちらに来たんだ
花火だなと思って振り向いたら
かなうちゃんが居たんだ
もう20年とかなのに直ぐ解った」
今日は時間無いからと
連絡先だけ交換してサヨナラした
部屋に帰りついた涙が止まらない
沢山の記憶が流れて来た
あの花火の後
私の誕生日の前の日に
光が家に来た小さな紙袋をくれた
明日見てねと笑っていた
明日家族でお出かけなんだ
ありがとうと笑った
光は駆け足で帰って行った
光の家のそばには
住人用の小さな踏切があった
遮断機もなく注意書きの看板だけの
電車が来るのを知らせる
警笛スピーカーはあった
光が家に戻った時に
3歳下の求が踏切に駆け出してた
一番下の告が警笛音の鳴り響く
線路の上で泣いていた
光も駆け出し求と告を投げ飛ばした
光だけ電車に牽かれた
どうしてそんな事になったのか
誰にも解らなかった
その夜両親に連れられて
葬儀所に私は行った
覚えてなかった 今迄
ずっと閉じ込めて居たのは
自分の気持ちと記憶だったのかも
母に電話した
求に会ったよと
母も泣いていた
「思い出したの?光君の事
かなうは泣かなかった
お通夜も葬儀も一切泣かない
お父さんと二人で心配したの
ご家族もあの場所は辛いと
直ぐに引っ越したから
あの踏切も消えたからね
かなうは何にもなかったみたいに
普通にしてたけどね
あの日光君が持って来た白い紙袋
それを見せると怒り出した
見せない様にしたけど
かなうの大切だから
思い出箱にしまってあるよ」
母の電話を切り押し入れの一番奥
母が作ってくれた思い出箱を見つけた
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