2人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は3月31日。明日から新年度だ。明日から新社会人として働く人もいれば、今年度と同じ年度を迎える人もいる。
「さて、明日から新年度。新年度はVtuberになって、新しい自分を見せようかな?」
翔は名古屋に住むフリーターだ。賃金は少なくても、上手に金をため、夢の実現のために頑張ってきた。そしてそれが、実を結ぼうとしている。
翔が目指しているのはバーチャルYoutuber、通称Vtuberだ。すでにデザインを描いてもらい、モデリングを依頼している。あとはデビューの時を待つだけだった。翔のVtuberの名前は雷神龍ボルタ、もうすぐデビューだ。翔はそれを楽しみにしていた。
「あと10分だな」
あと10分で新年度になった。だが、あまり気にしていない。新年度も普通に日々が続くだろう。新入社員も入らない。特に仕事に変わりはないだろう。いつも通りに出社し、退社すればいい。
「あと5分」
あと5分になった。徐々に新年度が近づいてきた。だが、新年度になるのを気にしていても、翔にはその実感がない。
「あと1分」
あと1分になった。新入社員は楽しみにしている。だが、翔は全く気にしていない。
「さて、新年度が始まった」
翔は新年度になったのを気にしていた。だが、そんなに変わらないだろう。
その頃、1匹の銀色の龍がその様子を見ていた。だが、翔には見えない。龍が魔力で見えないようにしているようだ。
「こいつか・・・」
その龍は翔を狙っていた。この男に4月1日だけどっきりするようなことをしてやろう。今日はエイプリルフールだ。何らかの嘘やいたずらをしてやる。
「こいつを1日乗っ取ってやる!」
その龍の目的は、翔を1日だけ乗っ取ってやろうというものだ。もちろん、翔は全く知らない。それどころか、その龍に会った事すらない。
突然、ガラスを割って、龍が入ってきた。全く知らなかった翔は驚いた。まさか、龍が入ってくるとは。だが翔は、その龍を見て、何かに気づいた。その龍は、自分のVtuberの姿、雷神龍ボルタにそっくり、というよりかそのものだ。
「えっ・・・」
すぐに龍は翔に巻き付いた。突然の出来事に、翔は何もできない。そして龍は、持っていた縄で翔を縛り付けた。翔は何もできなくなった。
「やめろ!」
「今日から俺を乗っ取ってやる!」
翔はなすすべがない。せっかくの新年度なのに、今日から乗っ取られるとは。どうして新年早々、こんな事になるんだろう。
「そんな・・・」
龍は翔の姿に変身して、パソコンをいじり始めた。そして、翔がやっているSNSをいじり始めた。目的は、このSNSを乗っ取り、翔のふりをする事だ。
「このアカウントをこうしてっと」
龍はアカウントをいじり、雷神龍ボルタと置き換えた。さらに、説明も全部置き換えた。翔はなすすべなく、その様子を見ている。こんないたずらをされるとは。
「乗っ取ってやったぜ」
「やめて!」
龍は笑みを浮かべている。これで翔のふりをする事ができた。あとは翔としての生活を楽しむだけだ。
「そうはいかないんだな。今日から乗っ取ってやると決めてたんだからな」
「そんな・・・。どうして・・・」
翔はがっかりしている。このままあの龍と僕が入れ替わり、このまま死んでいくのでは?
「お前を以前からマークしてたんだからな」
「えっ・・・」
「くそっ、このまま俺は人質か・・・。どうしよう・・・」
このまま人質で人生を終えるのは嫌だ。早く元に戻りたい。だが、そのすべが見つからない。
そのまま翔は寝てしまった。どかこれは夢でありますように。そして、また自由になれますように。
だが、そのまま朝を迎えてしまった。目の前には翔がいる。だが、それは自分ではなく、龍だ。どう言っていいんだろう。わからない。どんな事をしても、解放されないだろう。
「じゃあな、行ってくるからな」
「くそっ・・・」
悔しがる翔を尻目に、翔に化けた龍は部屋を出ていった。翔はその様子を見るしかできない。
夕方になって、龍が帰ってきた。龍は翔のままだ。翔の姿で、普通に仕事をしていたようだ。本当は自分がする仕事なのに、偽物がやっているなんて。自分の仕事なのに、それができない。それがとても悔しい。
「帰って来たぞ、って、なんか言えよ!」
龍は鋭い爪でひっかいた。翔の顔から血が出た。とても痛い。
「乗っ取られたのに、何も言いたくない!」
「この野郎!」
龍はまた翔をひっかいた。
「いたっ・・・」
「さてと、今日もパソコンを見るか」
龍はパソコンを立ち上げ、ネットサーフィンを楽しみつつ、作業をしている。今日もなすすべなく、その様子を見ている自分がいる。無念でしょうがない。
「フフフ・・・。驚いてる驚いてる」
龍は喜んでいる。今日も偽者のふりをしているようだ。
「いい気分だなー」
「くそっ、何もできない・・・」
翔は気にしていた。どうすれば元に戻れるんだろう。どうか夢であってほしい。だけど、それは現実だ。
そう思っているうちに、翔は寝てしまった。明日こそは、平穏な新年度が迎えられますように。
翔は誰かに叩かれた気がして、目を覚ました。目の前には龍がいる。龍はとても優しそうだ。どうしたんだろう。翔は首をかしげた。
「あれっ・・・」
「今日は何日か、知ってるか?」
翔は時計を見た。まだ夜中の11時だ。という事は、4月1日だろうか?
「4月1日」
翔は何かに気が付いた。今日は4月1日、エイプリルフールだ。まさか、エイプリルフールだろうか? 自分が乗っ取られるのは、エイプリルフールだったのかな?
と、翔は傷口を触った。だが、血が出ていない。どうやら、龍に治してもらったようだ。
「ってことは?」
「エイプリルフールだよ!」
やっぱりエイプリルフールだった。まさか、Vtuberになる前に、自分のVtuberの姿に似たやつにこんな事をされるとは。
「そ、そうだったのか!」
「SNSとかでは、エイプリルフールだと伝えておいたからね。あと、ブルースカイにアカウントを作ってやったから。これをあんたのVtuber垢に使ってな」
翔はほっとした。何もかも、エイプリルフールだと伝えておいたようだ。翔はほっとした。戻って何を言われるかわからないと思った。だが、何の心配もないようだ。
「本当? ありがとう」
「どういたしまして。それじゃあ、俺は城に帰らないと」
そう言い残して、龍は空へと帰っていった。翔はその様子をじっと見ている。龍は徐々に小さくなり、見えなくなった。これからは空から翔を見ているようだ。
翔はパソコンの画面を見た。そこにはブルースカイにできた自分のVtuberの垢があった。まさか、作ってくれるとは。この龍のためにも、頑張らないと。
「これがVtuberの垢か。これからが楽しみだなー」
とんだエイプリルフールだったけど、それはVtuberとしての活躍に期待している龍の応援に違いない。龍のためにも、そして応援してくれる人々のためにもVtuber活動を頑張らないと。
最初のコメントを投稿しよう!