4.七色の贈り物

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 本当に来たんだ…  私は最寄りのバス停で田原駅から来たバスに乗り、1時間かけて終点の大原山駅前に到着した。  少し待ちぼうけしていると改札から葵くんが出てきて……私に気付くとイヤホンを外し手を振って合図する。  楽しそうなキラキラのオーラを纏って。  駅からすぐの登山口に私達以外にもリュックを背負った人達。山麓の草花や頂からの連峰を愉しむ登山客が多い、標高1000mの大原山。小中と毎年遠足で登ってきた。山すそは草原のように緩やかな遊歩道が延びていて初心者にも登りやすい。  先を歩く葵くんはキラキラが溢れ止まらない様子。重ねてお喋りも止まらない。 「海外は行ったことある?」 「ない」 「俺ん家は夏休み毎年スイス行ってた。  真白(ましろ)も気に入ると思うよ〜、自然のコントラスト半端ないから。  いつか連れてってやりたいなぁ」  山の澄んだ空気に開放感もあっての単なる独り言。期待するわけでもないのに私の心はときめく。  向かいから下山してくる初老の夫婦と挨拶を交わす。疲労も感じているのだろう青のオーラ、でもその中にキラキラ光る希望の星達。私が一番好きなオーラの色。  頑張った後に心が満たされてる証拠だ。  ご機嫌な葵くんも鼻歌まじりに進んで行く。私の気分も乗ってきて「進路、もう決まった?」との質問につい本音で答えが。 「まだ… 第一志望は美大だけど、  うちの家計じゃ費用も無理だし浪人も駄目だし。それにただ好きに絵を描いてる私が美大なんて失礼だと思って。  無難に… 美術系の専門学校かな。  なんか… 諦め?で将来決めてくみたいでちょっと不甲斐無い気もして、、、」 「俺ね、自慢なんだけど…  高1の3学期に転校してくるまで東京の有名な進学校に通ってたの。  んで、高校入って進路希望に東大理科2類って書いてたよ」  私が自分に嫌気が差すのを止めた強気な前置きも納得の事実に、尊敬の声がもれて「東大目指した人に会うの初めて」と眼差しで崇める。 「初めまして?ハハッ。  もう過去の栄光だよ。親が離婚してさ親戚のツテでこっち来たんだけど……  環境って染みるよな。東京は勉強ばっかでこっちは自由と自然ばっか。イイも悪いも順応するけど、元にも戻れないし新しい居場所は簡単にできないし?  その中で理想を求めるって難しいよ」  私達はまだ未成年で、叶えられる事も自由に羽ばたく事も限られている。  今いる世界から飛び出す事は難しい…
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