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「俺は大学…
行った方がいいんだろうけど、結局またここも旅立たないとだしな」
地元から通える進路の選択肢は極めて少ないと思う。高校を卒業後はたいてい地元を離れた生活になるのだ。
「頑張って生きようとか、幸せってなんだろうネ…。よくさ、辛いとゆう漢字に横棒一つ足せば幸せになる、って励まされてきたけど。
字をピッと書くのとワケが違うよな?
その一つ手に入れるのに……死ぬほど努力しても無理かもしんないし。
一生辛いままかもよ……皆がおんなじ物で幸せになれるわけじゃないし。
人それぞれじゃん、一番欲しい物なんて」
山の中腹に入って草原から木々の中に登山道が進むと勾配がややキツくなる。疲れも出てくる頃、会話も愚痴っぽくなってきてしまった。木漏れ日も弱くなって雲行きも怪しそうだ。
いよいよポツポツと木々の隙間を抜けて雨が落ちてきた。
「葵くん、雨宿りしたほうが」
「どこにする!?」
先を歩く葵くんに少し上の大きな木を教えた。頭の上に手をかざして雨粒を防いでいたけれど、木の下に潜り込んだ時には体がしっとりしていた。通り雨な気もするが雨足が強く傘をリュックから出す。
「葵くん、傘は?」
「持ってきてない。マンパーでイケるかと思った」
「山の天気は変わりやすいのに。一緒に入って…」
私は葵くんの側に寄って傘をふたりではんぶんこする。木宿の元に落ちてくる雫はボタボタと傘を打ち付け、葵くんの背に合わせて伸ばしていた腕がグラグラし始めた。
「…俺が持つ」葵くんは私の横にピッタリ寄り添って、私から傘を受け取った。もう片方の手で傘からはみ出ていた私の肩の雫をはらう。
木陰の相合傘の下…
ちょっぴり胸がパチパチ… 恥ずかしいな。
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