4.七色の贈り物

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「あとどの位?」 「もうすぐそこだけど…   あ、今日の山登りはシィーッで。秘密の場所なので」 「…ははっ、オッケ」  見上げてぶつかる視線が短い。近すぎるとクオリアが敏感に反応してくすぐったくなる。    この木から登山道を外れて茂みの中を歩いていくと、絵の光景が見えるスポットにたどり着く。頂上は連なる山々と空を見渡せる絶景だけど、私達の町が背になってしまうので、このポイントからしか望めない。人の歩く道ではないので雨の時は危険だ。    ポツポツ傘の下に響く雨音が小さくなってきた。  サワサワ…   ふと、木の葉達が騒ぎ出したような。  予感。  すごい何か… 感じる。  私はおもむろに傘の外へ抜け出していた。 「真白(ましろ)?」  導かれるように茂みを掻き分けて、グシャグシャとした足元を踏みしめ秘密の場所へ。  木枝の間にぽっかり開いた自然の窓。町を見渡せる景観がキラキラと鮮やかに輝いている。  はっ!!  ――――――――・・・ わ、ぁ。  心を、奪われた。 「……はあぁっ」  呼吸、忘れてた。慌ててめいっぱい吸い込む。 「…すっげ」  追いかけてきた(あおい)くんが隣で同じ光景を目の当たりにし、一緒に私達は立ち竦んだ。  まるで星が降っているみたいだ。空から照らす太陽の光が雨粒を光らせて…   そして、  大きな虹が… 町を覆う一本の架け橋に。  夢、じゃない。  すごい奇跡が… 神秘の絶景がすぐそこに!  なのに――――  どうして、こんなに泣きたくなるの?  夢は叶うよ!  幸せになれるよ!  七色の彩る虹が煌めいて、そう励ましてくれているみたい。  私達が嘆いてきた憤りを、その美しい様で一瞬のうちに吹き飛ばしてくれた。  これは天からの贈り物でしょう?  ……嬉しくて、喜びと感動がピリピリ体中走り、抑えきれずに爆発しそう。もう自分の中に閉じ込めておけないくらい!  ムズムズする指先が何かに触れて……それを掴まずにはいられなかった。  ぎゅっとして溢れる気持ちを(こら)えるも、ぎゅうっとされて返される。  力一杯握り締めるお互いの手は、固くひとつに結ばれて。希望を見つけた私達は、言葉なくその歓喜を伝えあう。  いっとき、時間を忘れて……  美しい幸せの一本線を、ふたりで心に刻みつけた。
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