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「あとどの位?」
「もうすぐそこだけど…
あ、今日の山登りはシィーッで。秘密の場所なので」
「…ははっ、オッケ」
見上げてぶつかる視線が短い。近すぎるとクオリアが敏感に反応してくすぐったくなる。
この木から登山道を外れて茂みの中を歩いていくと、絵の光景が見えるスポットにたどり着く。頂上は連なる山々と空を見渡せる絶景だけど、私達の町が背になってしまうので、このポイントからしか望めない。人の歩く道ではないので雨の時は危険だ。
ポツポツ傘の下に響く雨音が小さくなってきた。
サワサワ…
ふと、木の葉達が騒ぎ出したような。
予感。
すごい何か… 感じる。
私はおもむろに傘の外へ抜け出していた。
「真白?」
導かれるように茂みを掻き分けて、グシャグシャとした足元を踏みしめ秘密の場所へ。
木枝の間にぽっかり開いた自然の窓。町を見渡せる景観がキラキラと鮮やかに輝いている。
はっ!!
――――――――・・・ わ、ぁ。
心を、奪われた。
「……はあぁっ」
呼吸、忘れてた。慌ててめいっぱい吸い込む。
「…すっげ」
追いかけてきた葵くんが隣で同じ光景を目の当たりにし、一緒に私達は立ち竦んだ。
まるで星が降っているみたいだ。空から照らす太陽の光が雨粒を光らせて…
そして、
大きな虹が… 町を覆う一本の架け橋に。
夢、じゃない。
すごい奇跡が… 神秘の絶景がすぐそこに!
なのに――――
どうして、こんなに泣きたくなるの?
夢は叶うよ!
幸せになれるよ!
七色の彩る虹が煌めいて、そう励ましてくれているみたい。
私達が嘆いてきた憤りを、その美しい様で一瞬のうちに吹き飛ばしてくれた。
これは天からの贈り物でしょう?
……嬉しくて、喜びと感動がピリピリ体中走り、抑えきれずに爆発しそう。もう自分の中に閉じ込めておけないくらい!
ムズムズする指先が何かに触れて……それを掴まずにはいられなかった。
ぎゅっとして溢れる気持ちを堪えるも、ぎゅうっとされて返される。
力一杯握り締めるお互いの手は、固くひとつに結ばれて。希望を見つけた私達は、言葉なくその歓喜を伝えあう。
いっとき、時間を忘れて……
美しい幸せの一本線を、ふたりで心に刻みつけた。
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