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「起こせばよかったのに〜」
夕焼けのオレンジ色に染まるバス乗場。
葵くんは寝起き顔で嘆き声。私が降りるバス停を通り越して終点の田原駅まで来たからだ。
「よく寝てたから。同じバスですぐ帰れる」
「そお?じゃあ、夏休みの為に期末頑張るか〜。絵も完成したら教えて」
「うん」
私はイヤホンを葵くんに返すと降りたバスに再び乗車した。チラリと車窓から改札に向かう葵くんの後姿をぽうっと見送って、また同じ座席に腰を下ろすと夢見心地にスマホの写真を眺める。
あのとき天がくれた贈り物はふたりで分け合った。虹をはんぶんこしたのだ。
『デカくて入んない。真白もスマホ!早く早く、消えちゃう!こうやって…半分ずつ。2つの画面におさめれば……
ほら!な?』
私達のスマホを宙に並べて、その奇跡の瞬間を写し撮った――――。
それから頂上を満喫し下山。絶好調な顔色の葵くんはバスで一緒に帰ると言い出した。純平に会いに行くつもりらしい。田原駅行きのバスに乗り後部座席に並んで座った。
出発して純平が不在とわかると葵くんはがっかり。『暇だぁ』背伸びの後にイヤホンの片方を私によこして、殺風景な窓の流れとバスの揺れに身を任せていると、暫くして……葵くんは眠ってしまったのだ。
景色は青空が暖かさに包まれ始めていた。
葵くん… ナイショにしてごめんなさい。
眠りに落ちた葵くんが私の肩に寄りかかってきて……ずっとスヤスヤ寝ていたの。
途中で乗車してきた男の子に『ラブラブだね』って言われて凄く恥ずかしくて。
それでも… 起こす気にはなれなかった。
だって眠りについたらなかなか起きないでしょう?……嘘です。
葵くんが桜色のオーラをふわふわ出していたから――――
疲れて眠る澄んだ青色に、その優しい春色を溶け込ませ…
私がこのまま葵くんのオーラに包まれていたかった。だから、起こさなかったの。
今ならわかる気がする。青色と春色のクオリアは青春の感じ、ではなくて…
まだ私が知らない、恋の…
初恋の感じ、、、かもしれない。
この切なさと儚さの気持ちが歯痒くて、熱っぽい片側がいつまでも温もりを放さなかった。
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