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2.青色のいたずら
翌日。
イーゼルにキャンバスを乗せテーブルに道具を準備すると筆を握る。高校最後のコンクールに応募する作品は、大原山の秘密の場所から望める町の風景画。
田んぼの緑が溢れる長いあぜ道、稲穂の黄金色の海原に紅葉の彩り、煌めく白銀の世界。美しい町で生まれ育った思い出に描き残したいと思った。
卒業後の進路は地元を出て専学へ通う予定。一旦町を出たらいつ戻って暮らせるか……。
椅子に座り面と向かう絵は、下描きは終わって陰影をつけ始めた具合。白と紺のアクリルガッシュを筆で色付けする。私は好きなように描いてきただけなので、作法も知識もないからアクリルと油と混ぜ塗りしたりする。
下描きは青鉛筆だし影は紺色。普通は炭や黒色だと思うけれど、黒は苦手で避けている。逆に青系は一番好きな色……だから。
瑠璃色の髪、青い瞳、蒼い顔色、葵…
昨日からずっと夢の中までも青色だらけで朝を迎えた。
置き去りのソファをチラッと見て溜息。
私のお気に入りの場所はソファに占領されてしまって、反対側に陣取りをしたものの気になって集中できないのだ。
「はぁ…」
「ホントにぼっちでやってんだな」
「ひっ!?」
突然の声にびっくりしてお尻から飛び跳ねた。驚かないよう身構えていたのに台無しだ。
今日も急な登場をしては勝手に動き回り、ソファの下を覗き落とし物を探しに来たのか、紙を手にして我が物顔の葵ひと。
髪色は確かに瑠璃の美しさを失っている。
キャンバス越しに目が合うとまた私を視界の中にきっちり納める。それをされると緊張するのに、側まできて彼はまじまじと絵を眺めた。
腕組みをした葵ひとは視線を絵から私に向けると瞳を上下に動かして……
「なんかそれ…、可愛いな。園児みたいで」
「かっ!?」
長袖のスモックエプロンが園服に見えるのだろう。中学からの愛用品で絵を描く時は制服を汚さない為に着用している。元は水色だけれど色褪せてしまったし絵の具は付いてるし、可愛いと言われる容姿ではないのに。
唐突な発言で私を困らせるとさらに腰を折り曲げて顔を覗き込むので、背筋がキュッとなって息が止まりかける。
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