2.青色のいたずら

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 今日が校長と再面談なのに、すっかり髪色戻すの忘れて来ちゃったから……髪に色塗ってなんてどうかしてる!!  私は目をひん剥いた。 「無理っ!」 「真白(ましろ)なら出来る!  流石に校長処分は卒業に響くから……真白にかかってる。頼む!処分回避できたら御礼するから!」  真っ直ぐなのに私の心に絡まる彼の視線は……初めて交わした時から、魔法みたいに従わせるんだ。  御礼なんてどうでもいい。何より私の絵を真剣に見て『綺麗だ』と褒めてくれた人を、私は粗末に相手できない。  急ぎで、との手合わせに私は頭を回転させた。パレットと水、乾きの速いアクリルガッシュの青墨と焦茶。スポンジをガーゼでくるみ輪ゴムで留めてたんぽを作る。スモックを来てイスに腰掛けた彼の肩にタオルをかけた。  3日前とても美しい瑠璃色をしていた髪は、やはり色落ちが早いのかもう艶がなくなっていた。メッシュの所だけ指で掻き取り左掌にのせ、墨と茶の半分色のたんぽでポンポンと色をのせていく。なるべく1本1本カバーできるよう指でなぞって調節しながら、速く乾くように息を時折吹きかけて…… 「素手で大丈夫?」 「感覚がわからないので。髪の毛のほうがシャンプーで落ちるか心配です」 「平気、平気」  彼の喋った吐息が私のスモックの胸元を揺らす。彼は大股開きで座り私はその間に入っている、なんとも密接した態勢だ。  こんなに(そば)で……髪に私の息までかけられて、彼は嫌ではないのだろうか?  つい集中力を欠く疑問が浮き出ると、彼の顔色を観察したい気に囚われて……ズームアウトするとバチッと目が合った!! 「真白(ましろ)ってさ、よく観察してるようで違うとこ見てるよね?」 「えっ!?」  彼の瞳に縛られてドクンと心臓が大きく鳴った。この至近距離で射抜かれた心音が伝わらないようはぐらかす。 「ぜ、全体的なイメージを観察する癖です」 「そう……」  彼の視線が外れると私は髪だけ視界に入れて集中することにした。全部の青髪を塗り終えると仕上がりに彼はとても満足して、鏡の自分と私を交互に見る。 「すげぇ!ありがと、真白!」 「早く行って…」  繰り返される賛辞と笑顔に、また手がピリピリとむず痒くなってきた。彼が無邪気に去った後まで、髪の感触も寄り添った感覚も余韻が残って……今日も絵を描くことができなかった。
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