入学写真

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 小学校に上がる時に撮ってもらった入学写真。それの片隅に人影のようなものが映っていることに気づいたのは、撮影から数年が経過した後のことだった。  たまたまよその父兄が写真に映り込んだのだろう。  両親はそう言って気にも留めなかったし、俺もそうだろうとその時は信じた。でも、中学の時に何かの弾みでその写真を見て愕然としたんだ。  映り込んだ人影が俺の側に寄ってきている。  すぐに両親に写真を見せ、そのおかしさを訴えたが、気のせいだと、俺の訴えは聞き流されてしまった。  だけど俺はどうしても気のせいには思えなくて、それからは、ことあるごとに写真の人影の位置を確認した。  絶対に気のせいじゃない。確実に人影は俺の方に寄ってきている。  それを何度訴えても両親は取り合ってくれないし、友達や先輩、先生なども気のせい扱いしてくる。  もう、誰に写真を見せるのも嫌になり、自分自身でも見たくなかったから、俺はその写真を焼き捨てた。  あれが何だったのかは知らないけれど、もう写真は存在しない。そう思うと、嘘のように気持ちが軽くなった。  もっと早く写真処分すればよかった。  それ以降は、俺もすっかり写真のことなど忘れていたのだか、今、かけられた声にあの人影を思い出した。  大学入学記念に一枚。  そう言って、同じ大学に通うことになった友達がスマホを向けてきた。それに、笑顔でピースサインを出した時、後ろからその声が聞こえたんだ。 「入学おめでとう。俺も、やっと君に届く位置まで来ることができたよ」  写真を撮るのを待ってくれ。そう告げるより早く押されたシャッター。その音を聞いた時に悟ったんだ。この一枚は俺の最期の写真になるのだと。 入学写真…完
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