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「気付いちゃった、ウチ」
「へ?」
「ウチと美海は、もう絶好しよう。ウチの近くに来ないでほしい」
縺れた糸のように、頭がこんがらがって解けない。何、突然。千夏ちゃんはやんちゃな面もあるけれど、そんなこと言う子だとは思わなかった。
「美海のそういうところ、ウチは全部嫌い。後先考えず突っ走って、すぐ他人に迷惑かける」
ずっと本心を隠しながら私と接していたの? 酷い。酷いよ。最初から言ってくれればよかったのに。
そしたら私、頑張って短所を直したのに。何で今更? 久し振りのお花見なんだよ?
「美海の紙飛行機なんて……泥水に突っ込んじゃえばいい。早くそこで寝てよ」
泥水じゃない何かが目元から溢れ出して止まらなくて、私は顔を手で覆った。私だって、故意的に崖から落ちようとしたわけじゃないのに。
いいよ。こっちだって、千夏ちゃんなんて大嫌いだ。
「おお、目を覚ましましたか」
意識が飛んでいたみたいで、私ははっとした瞬間、病院に居た。ベッドの上で横たわっているようだ。
真上からは、白衣を着用した医者みたいな人が私を見ている。
「私は、一体……?」
「貴方は事故に遭いました。貴方のご友人と共に、信号無視をした軽自動車に跳ねられたんです」
ぼんやりと、強い衝撃を受けた記憶が蘇る。確かピクニックバスケットと、千夏ちゃんとよく遊んだ紙飛行機を持って……。
「そうだ、千夏ちゃん。千夏ちゃんは!?」
医者は口を噤み、何かを言い淀む。
私は察してしまった。あれはこの世とあの世の狭間であって、千夏ちゃんは多分、まだあそこに居ること。そして、千夏ちゃんが崖からの落下を防いでくれて、急に私を突き放して、早くそこで寝て、と言った理由を。
私は今度こそ泣きじゃくった。この感情はあれに似ている。いつまでも続くと思っていた大好きなアニメが、最終回を迎えてしまったときの悲壮感。
あれを今、何百倍に拡大したような気持ちだった。
入院病棟の窓の外では、咲き誇った桜が枝の先々を揺らしている。
やがて一枚。否、一機の桃色の紙飛行機がはらりと窓ガラスをなぞった。
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