桃色の紙飛行機

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「お花見って、ウチらの友情の証みたいなもんだからね」  青と白のストライプ柄が、足元の桃色と草色に囲まれてよく目立つ。  レジャーシートを敷く私の隣で千夏(ちなつ)ちゃんがそう言ったのは、久し振りに二人でお花見に来たから。そもそも、二人で遊ぶこと自体何ヶ月ぶりだろう。 「私さ、この日のためにピクニックバスケット用意したの。良くない?」 「うん。めっちゃ可愛い。持ち物は完璧で桜も満開だし、何より晴天。まさにお花見日和じゃん」  桜の木が一本だけ生えた丘は見渡す限りの草原が続いており、春の陽気と合わさって暖かな自然を感じさせる。  桜の花びらがちらちらと揺れながら落ちていった。 「千夏ちゃん、レジャーシート敷いたから座ろ」 「サンキュ!」  私が丹精込めて作った料理を千夏ちゃんのために取り出そうとして、私はピクニックバスケットの蓋を開けた……はずだった。 「ちょっと、何これ。え!?」 「どうした〜……って、へえ。ウチへのサプライズか」 「違う違う違う!」  料理は無かった。その代わりに何故か、バスケットの中に紙飛行機が入っていた。片面はピンク色で、もう一面は真っ白だった。 「でも、これって桜の花びらみたい」 「え?」 「紙飛行機ってなんか、桜の花びらに似ているじゃん。ウチ、結構好きだよ」  千夏ちゃんは紙飛行機を持つと、斜め上目掛けてそれを発進させた。  機体は左右に動きながら、前へ前へと遠方へ飛んでいく。向かい風をものともしない様子は、千夏ちゃんにそっくりだった。 「ウチの推進力は、ウチ自身!なんてな」  バスケットの底では、もう一機の紙飛行機が私を待っていた。  私も千夏ちゃんの真似をしてみる。ただ、向かい風に抗うのが怖いから、千夏ちゃんの紙飛行機を飛ばした方向と真逆に向けた。  追い風を受けて、私のピンク色の紙飛行機をすっと飛ばしたつもりだった。  なのに、力加減を誤ってしまって紙飛行機はすぐに丘の下までひょろひょろと落下した。 「あっ、このままだと落ちちゃう!」  私は紙飛行機を追いかけて、丘を下ろうとする。  その時。誰かが私の服を背後から掴んだ。振り返るとそこに居たのは、千夏ちゃんだった。 「千夏ちゃん?」 「待って。その先は、崖」 「崖?そんなわけないじゃん。だってここは丘……ひっ」  千夏ちゃんの言い分は本当だった。私の足元が崩れ出し、丘だった場所は桜の周りを残して消えていた。桜の花びらが、いつか地面がやって来ると信じて空に飛び込む。  ここから落ちたら、間違いなく死んでいた―――。
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