15人が本棚に入れています
本棚に追加
「ビール寄越せ」
屈んだ俺の後ろから伸ばされた手に缶を一つ渡してやると「サンキュ」と言ってスタスタと部屋に入っていってしまう。俺がチキン南蛮をレンジに掛け始めたところで、部屋からプシュ! と勢い良く炭酸が抜ける音がした。
「美味っ」
「あっ! ちょっと何で先に呑んでるんスか!」
慌てて部屋を覗くと神林さんは俺のベッドに腰掛け、一人で缶を傾けていた。スーツの上着もちゃんとカーテンレールにぶら下がっていたハンガーに掛けている。
「良いだろ、別に」
「良く無いっスよ。カンパイするもんでしょ、普通」
「カンパイぐれぇ、後でいくらでもやってやるよ」
そう言って二口目を呑む。サラサラとした前髪が昼間よりも多く額に落ちている。色の白い肌と薄い唇と細い手首と長い指。どれもこれもいつも見ている神林さんだし、どれもこれも見たことの無い神林さんだ。
(このままこの部屋に閉じ込めてやろうかな)
馬鹿みたいな、でも大真面目な考えに後ろ頭をボリボリと掻く。
最初のコメントを投稿しよう!