15人が本棚に入れています
本棚に追加
「振られたこと気にしてんのか? いつの話だよ。別れたのは去年の夏とか言ってただろ? 女々しいぜ」
神林さんは口の端を持ち上げてケケケと笑う。俺が振られた原因と「俺は悪くないと思う」という台詞を繋げてしまったようだ。
「違いますよ。そうじゃなくて……ってまあいいや」
俺もレモンサワーのプルタブを引く。俺が言いたかったのは神林さんの相手に俺は悪くないってことだ。つまり神林さんの恋人候補にふさわしいですよ、いかがですかってことなんだけれど、それを改めて説明するのはお笑いのボケを説明してしまう行為に似てダサイことこの上ない。
神林さんはムッとして目を眇めた。
「じゃあ何だよ。言いかけて止めんな」
(うーん。この人本当に閉じ込めてやろうかな)
可愛く——俺にとっては可愛く見える怒り顔で俺の顔を見下ろしてくる。何もしないって言ったけど、やっぱりここに閉じ込めて、めちゃくちゃに抱いてやろうかしら。
俺は視線で神林さんを捉えたまま、無言でレモンサワーに口を付けた。シュワシュワと湧き上がる細かい泡が喉を刺激しながら下っていく。
俺はテーブルに缶を置き、ぷはぁとレモンの息を吐き出した。
最初のコメントを投稿しよう!