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俺は神林さんの目の前に、真っ直ぐ手のひらを差し出した。
「何だよ」
「今日からよろしくの握手っス」
戸惑う神林さんに、「早く」っと膝立ちになり前のめりに手を伸ばす。
「…………」
チッと舌打ちをした後、おずおずと伸ばされた手を逃がさないようにぐっと掴む。そしてそれを勢いよく引っ張って……
「!!!」
体勢を崩した神林さんの唇を掠め取るようにして奪ってやった。冷たい唇は微かにレモンの味がする。
「お前っ!!!」
真っ赤な顔をして手首で唇を隠すようにした神林さんの顔は、やっぱり二十九歳には見えなかった。きっと歳を誤魔化しているんだ。俺はぺろりと唇を舐めて、そのレモンを、神林さんの残滓を味わう。
(神林さんは俺の栄養)
「ふふふ。これは恋人記念ってことで」
「き、記念って馬鹿かっ」
「これ以上はしませんから」
「あっ、当たり前だ! 馬鹿野郎っ!」
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