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「え? 何なに? 誰に見せんの?」
坂戸さんの前のめりな質問に、俺は顎を撫でてわざとらしく目を眇めた。
「そんなの、好きな人に決まってるじゃないスか」
「ごふっ!」
俺の台詞に刈り上げの後ろ頭が盛大に咳き込む。
(お? 好反応?)
敢えて大きめな声で「ちゃんと見てくれると良いんですけど」と続ければ、神林さんは漸くこちらに顔を向けた。
「やだー。若いわねっ!」
親戚のおばさんがそうするみたいに顔の横で片手を振り下ろしキャッキャと盛り上がる坂戸さんの後ろで、苦虫を何十匹も噛み潰したような顔が俺の顔を睨み付けている。調子に乗って前髪に手をやりつつポーズを取れば、チッと舌打ちが返ってきた。
「いつもと変わんねぇよ」
「え? つまりそれって、いつも俺が格好良いってことっスか」
絶対違うとは分かってはいるけれど(絶対と断言できるのも悲しいけれど)敢えてそう返す。
(どんな返事をしてくれる? 冗談でも格好良いとか言ってくれないかな)
淡い期待を込め、色の白い顔を見る。すると間髪を入れずに聞き慣れた台詞が返ってきた。
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