木に成る輸血パック

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「美しい桜の樹の下には屍体が埋まっている」などというポエミーな妄言を真に受けた、勉強のできる馬鹿がいたらしい。  そいつらは桜と生き物のDNAやら組織やらを掛け合わせたりと、なかなかマッドな研究を進めた結果、この世の物とは思えないほどに美しい桜の開発に成功した。  そしてその副産物として、桜の花弁に人間の血液に限りなく近い成分を持った液体が含まれていることがわかった。  これが実際に輸血に使えることがわかると、すぐさまこの桜は医療現場で活躍するようになった。美しい桜を創り出したにも関わらず、花見を楽しむ隙もなくその花をもぎ取ってすり潰されていく様に開発者達は落胆したそうだ。  一時は厳格な管理体制の下、公園にこの桜を植えて花見を楽しもうという試みも行われたが、すぐさま中止された。現在は研究所の一角、無機質な部屋で人工ライトを浴びる桜を見ることができるのみである。  かつて公園で一般公開された際には、花見に来た客たちはそのおぞましさに虫を散らすように逃げていった。木の枝に鎮座する血を含む花弁は蚊やダニやその他諸々の血を吸う虫にとって天国のような食べ放題スポットである。  花見の客たちは美しい桜の花弁を欠片程も見ることなく、桜に群がる虫達の蠢く黒い塊を目にしたのだった。
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