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ウェアウルフは集団で行動する魔物だ。リーダーが統率を取り、下っ端が数で襲ってくる。生息場所は森や山など。雪山に生息しているホワイトウェアウルフってやつもいるらしい。
ちなみに全部ダリウスが教えてくれた情報だ。
「ウェアウルフは一匹であればそんなに手こずる魔物ではないのだけどね。この数は……」
森に入ってすぐ、開けた場所に辿りついた俺たちはウェアウルフと相対していた。脇の方に大きな窪みがあって、そこから亀裂が走ったように崖が続いている。落ちたらヤバそうだ。
「なっ、なんだこの数!?」
優に百匹は超えるウェアウルフの集団が目の前にいる。巣のような窪みがいつくかあるのが確認できるから、ここはウェアウルフの巣なんだと思う。
それにしても多くないか?
「ダリウスっ、もしかして帰ってこなかった人達ってこいつらに……」
「間違いないだろうね。ツバサは下がっていて」
「えっ、おいっ」
ダリウスが一歩前に出る。背中からでも伝わってくる威圧感。それを感じとったのか、ウェアウルフ達も戦闘態勢に入った。
「そういえば、ツバサにはまだ魔法の使い方を教えていなかったよね。いいかい、魔法を使うときは魔力を体内から溢れさせるイメージを想像するんだ」
ダリウスの身体がほんのりと青く光ったかと思ったら、溢れ出した魔力がゆっくりと空中で氷の塊へと変化していく。
「でっ、でかっ!!」
隕石ってこんな感じなのかもしれない。そのくらい大きな氷の塊が、ウェアウルフの集団に向かって落ちていく。地面と接した所から、冷気が広がり辺りを氷で覆い尽くす。
ウェアウルフ達は全身を凍らされて身動きが取れなくなってしまった。
「すげえ……」
この世界で初めて目を覚ましたときの光景を思い出した。あの日もこんな風に視界に映るすべてが氷で覆われていた。
ここに来て結構経った気がする。あのときはダリウスのことを好きになるなんて思ってもいなかった。
「格好いいな!ダリウスってやっぱり頼りになるよな」
声をかけようと前へ踏み出す。
「まだ来たら駄目だ!」
ダリウスの強い声が響く。
「ガウっ!!」
「えっ」
その瞬間、ウェアウルフの残党が俺の方に襲いかかってきてバランスを崩してしまった。
「ツバサ!!?」
「やばいやばいやばい!」
そのまま崖の方へと身体が落ちていく。ダリウスの風魔法が目の前をすり抜けて、ウェアウルフへと当たり、弾き飛ばされる。崖に落ちていく俺へ手を差し出したダリウスに、俺も手を伸ばし返した。
「ダリウスっ!」
「ツバサ掴まって!!」
指先が触れ合う。
(ごめん、ダリウスっ)
完全に油断していた。
絶対に気なんて緩めたらいけなかったのに……。
お互いの手が交差してすり抜ける。どんどんと離れていく距離。悲痛な面持ちで必死に俺の名前を叫ぶダリウスに向かって「ごめん」ってもう一度声を出して伝える。
そんな顔をさせてごめん。
もうダメだ……そう思った瞬間だった。
ダリウスが思いっきり身を乗り出して、俺の方に落下してきたんだ。
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