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「馬鹿っ!なにやってんだよ!!」
「死ぬときは一緒だよ」
風魔法を唱えたダリウスが加速して、追いつくと俺の身体を抱き寄せる。続いて防御魔法を発動させて、守るように俺のことを力強く抱きしめてきた。勢いのまま体を反転させ背を下に向ける。
そのまますごいスピードで落下していく。
地面に勢いよくぶつかりそうになった瞬間、ダリウスが風魔法で勢いを弱めてくれた。ダリウスの背が地面へと着地する。同時に俺の鼻が胸板へとぶつかった。
「いってぇ……」
「大丈夫かい」
安堵の色を宿した瞳が様子を伺ってくる。身体を起こし、大丈夫だと伝えれば、ダリウスも立ち上がって軽く息を吐き出す。
「無事でよかった」
「……とか言いながら、全身を確認してくるのやめろよ」
俺の周りを1周しながら隅々まで怪我がないかチェックするダリウス。通常運転すぎて逆に安心する。
それに、俺の不注意で落ちてしまったのだから、強く止めることもできない。
上を見上げれば、微かな光が差し込んでいるのがわかるだけで、這い上がれそうにもない。かなり深い場所なんだと思う。
周りは石ばかりで、右側は石壁になっていて進めそうにない。左の方には道が続いているみたいだ。
「巻き込んでごめんな」
「巻き込まれたなんて思っていないよ。俺がもっと気を配っていれば防げた事態だった。謝るのは俺の方だ」
クシャリと髪を撫でられて、唇を噛み締める。その優しさが今は少しだけ罪悪感を刺激してくる。
「それに、ツバサが無事だということが俺にとっては一番大切だからね」
「……はは、相変わらずだな」
落ちていた荷物を拾い上げる。
「とりあえず先に進むしかないね。流石に登れそうにもない」
並んで道を進み始める。ダリウスが隣にいるおかげか、不思議と不安感はない。
一本道をひたすら進み続けると、日が傾き始めた頃に神殿の入口の様なものが聳え立つ場所まで辿り着いた。
「ダンジョンだね」
「これがダンジョンなのか?神殿みたいだな」
「ダンジョンは過去の偉大な魔導師が築いたといわれる場所なんだ。魔法の研究に使用していたという説や、魔導師と墓だという説が濃厚だね。無限の魔力が満ちていて、魔物はその魔力を吸収して産まれてくるんだ。……ただ、少しおかしな魔力を感じるね」
不穏な言葉に眉を寄せる。俺には魔力を感知する能力なんてないから、ダリウスのいうおかしな魔力は感じられない。
ただ、騎士団長だったクリスの勘が、この先は危ないと告げている。
「……行くのか?危なそうだけど」
「この場所がダンジョンの何階に位置するのかわかれば、あとは俺が道案内をするよ」
「地図もないのにわかるのか?」
「一度歩いた場所は大体覚えているんだ。それに地図なら俺の荷物の中にあるから大丈夫」
頼りになる言葉に安心感が強まる。
普段は変態だけど、こと冒険に関してはダリウス以上に頼りになるやつなんて居ないんじゃないかって思うんだ。
「今日はひとまずここで休んで朝になったら先を急ごう。夜は魔物の動きが活発になるからね」
「そうだな」
暖を取るために、転がっている木材を集めて火をつける。辺りが少しずつ暗くなりだす。満点の星空は前世ではあまり馴染みのなかったものだ。
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