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29 親方のお兄さん
「ドワーフでーす!」
「あっだめだよクローリー!」
突然走り出したクローリーがそのドワーフのおじさんに抱き着いていた。
当然ながら「うぉ!」と驚くおじさんも、クローリーを見て「なんだいきなり」とは言うものの、どことなく喜んでいるように見える。
しかしクローリーのドワーフに対する反応はなんだろうと思ってしまう。決しておじさんが羨ましいわけではない。
ウルズの親方からの手紙を読み終えた後、僕たちの今装備している武器を見たいと言い出したドワーフのおじさん。
名前はラドダルグで、ウルズの親方はルドドルグというらしい。
ラドダルグさんは、特にカタリナが背負っていた魔法の箱に驚愕していた。だが手紙にでも書いてあったのだろう。感心しながら「すげースキルのようだな」と言っていた。
手足のガードについても「重いよな」と確認しながら色々触っていた。
僕が「重さは一切考慮せず、良いものを作ってほしいです」という言葉に「わかった」と渋い受け答えをしていたが、その後、クローリーが「でーす!」と言うとまたデレデレしていた。
資金があることを良いことに、自分たちの戦闘スタイルと要望を伝え、ラドダルグさんのアイデアも話し合う。僕もカタリナも話し合っているうちに少し興奮するほど楽しい時間だった。
クローリーはお弟子さんなのかいつの間にかいた男の子に、飲み物を持ってきてもらって呑気に飲んで寛いでいた。時々ラドダルグさんの髭をふわふわ触ってへへへと笑っていた。
「よし!ガードと杖は3日、鎧とローブは1週間くれ。あと魔剣だが…4週間で仕上げて見せる!」
「あの、あまり無理しないでくださいね」
話の途中で『3日は徹夜でー』とかつぶやいていたので少し心配になる。
魔法の箱の方はその場で少し改良され、いくつか小さな増幅装置のようなものを付けられた結果、容量が1.5倍程度に増えたと言われた。だが本当に小さな部品だけだったにも関わらず重さも同様に1.5倍なんだとか…
僕には魔道具の原理がまったく理解できない。
最後に忘れてたお金の件を切り出すと、「いくらある?」と言うので最大で白金貨4枚と少し得意げに伝えると、「じゃあそれで良い」と返ってきた。
その言葉に若干フリーズすると、作ろうとしている魔剣の二振りだけでもそれぐらいは原材料が行く予定だとか…
いったい何ができるんだろうか逆に不安になるが、良いものだと言うのは分かるので、頭を下げお願いした。
そして、できればという事で、迷宮の40階層ボスの黒騎士デスロードと、東の砂漠を超えた先にある遺跡の最奥のアダマンガーディアンを丸ごと取ってきてほしいと言っていた。
両方共、僕の魔剣用の素材なのだとか…
その他の素材はあるので、それを丸ごとくれるなら助かるとのことなので、折角だから頑張ってみようと思う。
結局ラドダルグさんのところから帰るころには夕刻近くとなっていた。
「なんだかどっと疲れが出てきたよ」
「ほんとにね。でも楽しみでもあるよね!」
「ストロベリーが一番おいしかったでーす!」
そんなこんなで宿で食事をとって部屋へ戻った。
今日はお風呂は遠慮しようかな?と思い早々にベッドにもぐりこんだが、お風呂場から聞こえてくる2人の声に少しだけ悶々としてしまった。
できれば一人部屋に移りたい…
それから一週間、僕たちは迷宮の30階層、あのアイアンゴーレムを目指してレベル上げをしていたが、意外とあっさりと倒すことができた。
予定通り3日目に完成したガードと杖のお陰でもある。
僕とカタリナのガードには攻撃力と瞬発力増強の効果が付与されている。
魔力でオンオフができ、メインとなる左手のスロットにゴブリンクラスの魔石を吸収させると、10分程度効果を発するようだ。発動時に一瞬光るゲージで大まかな補充ぐあいも確認できる。
今は20階層付近で大量に狩った土蜥蜴の魔石を2つほど吸収させ、満タンで1時間程度は持続して利用することができる。
クローリーが使っている『聖者の杖』は聖魔法属性を大幅に強化する効果があるため、『回復』や『結界』はもちろん、『光の剣』の威力が大幅に上がり多分だけどソロでもアイアンゴーレムを倒せる程のものだった。
そして僕たち3人は、それぞれ1体を受け持って瞬殺してしまう。
それほどまでに強化された自分自身に驚いてしまう。
残念ながら緊張しまくりで3人で開けた宝箱は、多数の宝石類と装飾付きの剣と鎧であった。それでもかなり立派なもので、宝箱の剣と鎧、宝石だけで金貨25枚程となったが、今更金貨では驚かなくなった。
とは言えこれでA級の冒険者となり、さすがに絡まれることも無くなった。
そして今日、ラドダルグさんを訪ねると、新たに僕とカタリナの軽鎧、クローリーのローブ、3人分の肌着の上に着る鎖帷子を受け取った。
軽鎧はスタミナ回復と魔法防御を付与されている。動力は使用者の微力の魔力を吸い、組み込まれている魔方陣で増幅しているので、使用者の負担にならない程度だという。
鎖帷子にも同様の効果が付与されているようだ。
クローリーのローブには物理防御を高めてくれる効果に聖魔法の強化、気温調整の効果もあるようで、軽鎧より少し多くの魔力を消費するらしいが、内ポケットのような部分に魔石を吸収させて補うという。
ゴブリンの魔石で1日程度は使用可能なので経済的でもあるようだ。
気のせいかもしれないがクローリーの装備には気合が入っているように思えるが、それはあまり考えない様にしよう。相変わらずラドダルグのクローリーを見つめる目は熱いものを感じる。
そして迷宮の黒騎士デスロードか遺跡のアダマンガーディアンの、どちらが先に必要なのか聞いておく。
取りあえず遺跡の方を先に持って来てもらえば、1週間程かけて剣の芯を練り込むという意味不明の回答をもらった。まだ3日はその他の作業もあるとのことだが、なるはやでとのこと。
早速食料と買いだめし、魔法の箱に入れて遺跡まで出発した。
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