03 公爵家として

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03 公爵家として

父は僕の返事をイライラしつつも待っている。 「早くしろ。どうなんだ?凄いスキルなのだろう?軽量化とは、初めて聞くがそのまま物を軽くするとかいうハズレスキルではないのだろ?」 遂に我慢しきらなかったのか、強い口調で僕に問いただすように迫ってくる。 「それは…」 どうしよう。そのまんまの意味であることを肯定するしかないのだが…どう考えても立腹するのは決定事項だろう。 「触れた物を、軽くするスキルのようです…」 言った。言ってしまった。 そう思いつつ父の顔を見る。 その顔は真っ赤に染まり、今にも腰の剣を抜きそうになっている。背後からはぼそぼそと話をしている者たちの声も聞こえる。どれも僕や公爵家を馬鹿にする声であることは明らかだ。 これは、殺される! 「父上!聞いてください!掌る者というジョブはおそらくかなりレアなジョブでしょう!それがただ物を軽くするスキルだけのはずはありません!きっと、きっと何か凄いスキルであるはずなんです!」 「黙れ!」 言い訳をする僕に、父は怒気を飛ばす。 父のスキル『威嚇』というものだろう。 蛇に睨まれた蛙のように身動きどころか呼吸もままならなくなる。 「帰るぞ」 父がそう言いその場をスタスタと立ち去ってゆく。 父に何か言おうとした貴族たちもジロリと睨まれ口をつぐんだ。 父に続いて母と弟も、僕とは目を合わせることも無くこの場から退出するようだ。 そして僕の隣には執事ヨデルと、メイドのエリーナがやってきた。 僕は二人にすがるような目を向けるが、2人の目もまた冷たかった。 「帰りますよ」 エリーナが抑揚のない声でそう言うので、ああ、この二人も公爵家の跡取りとしてしか見ていなかったのだろうと理解した。父を怒らせ、公爵家としての品格を傷付けた僕に、家を継ぐ権利はもう無いのだ。 そんな人間を敬う気持ちが湧かないのも当然だろう。 こうして、僕は周りからの揶揄うような声を聞きながら、顔を下げその場を後にした。 教会を出るとすでに馬車が1台しか残っていなかった。 予想通りだったためそこまで気落ちはしていないが、ヨデル達と共に残された馬車に乗る。 行きはあんなに期待を胸に楽しい会話に花を咲かせていたのに、今はまるでお通夜のようで、誰も口を開いたりはしていない。 僅か10分程度の道のりであったがその3倍は長かったのでは無いかと思うぐらいに苦痛であった。 屋敷に着くなり2人は無言のまま先に馬車を降りたので、僕も遅れぬように降り屋敷に入る。そこには可愛い弟、ロウデスが待っていてくれた。だがその顔は決して笑顔ではなかった。 「無能なあなたを、僕はもう兄とは思わない事にしました。これからは僕が、この公爵家を守ります。だから安心してください」 無表情でそう言う弟を見て、何かが壊れてゆくような気がした。 「イテイオ。お前は今からこの公爵家とは縁もゆかりも無いただのイテイオだ。早々にこの屋敷を出るがいい。そしてこの国にお前の居場所はないと思え」 そう言いながら金貨を一枚、僕の前に投げる。 その金貨はコロコロと転がり、僕の靴にあたり止まる。 「旦那様。仮にも公爵家の嫡男を、金貨1枚で放り出すのは…世間体というものもあります…」 セバスの言葉に、父は苦虫を噛んだように顔を歪ませ、了承するように小さくうなづいた。 そしてそのままロウデスと一緒に2階へと上がっていった。 階段の上の廊下には母ハレルヤの姿もあったが「母上!」と言う僕の声に反応するように、不機嫌に顔を背け自室へと入っていった。 結局、ヨデスから追加で9枚、合計で金貨10枚、日本円で100万程度を持たされ追い出されることになる。 「ありがとうヨデス…」 「ふん、お前のためではない。この公爵家としての格を考えれば、このぐらいの施しがあれば領民も納得するだろうと思っての事…自分のためだと思いあがるな」 ヨデスの冷たい言葉を聞き、もう味方はいないのだと思った。 すでに僕の専属であったはずのメイド、エリーナはその場にすら居なかった… このままここに居ても多分すぐに追い出されてしまうよな… そう思ってまだこちらを睨んでいるヨデスに、何度か振り返りながらも玄関を出ると、先ほど乗ってきた馬車がまだ止まっている。 御者が扉をすぐに開けたので、どうやらこれに乗れと言っているように感じた。 乗り込む前に御者に行き先を尋ねると、どうやらこのミズガルズ王国の西側の隣国、クヴェンランド帝国との国境へと行くようだ。そこから僕は帝国に行くのを見届けろと言われているらしい。 すまなそうにこちらに頭を下げながらそう言う御者に、もう何も言う事はできなかった。 そして気まずい雰囲気のまま馬車は王都フヴェルゲルの西、小さな宿場町ミーミルの食堂で夕食を取ると宿に泊まる。 そして翌日も朝食を頂いた後、早い時間から馬車で移動し、お昼過ぎには目的地となる帝国との関所までたどり着いた。左右は深い森、高い塀に囲まれたその関所を見て、遂に放り出されるのかとため息がもれる。 御者はここで降りて下さいと頭を下げるので急いで降りる僕を置いて、関所の兵士の元まで走り何かを手渡していた。 そして「後はそのまま門を抜けると乗り合い馬車が出ているので」と木の札を手渡された。 「これは?」 「これを見せると帝国の首都、帝都ビフレストへの馬車に乗れます。私が指示されているのはここまででして…すみません」 「いや、ありがとう。気を付けて帰ってね」 虚無感に襲われつつも、御者にお礼を言いつつ馬車へと戻り去ってゆくのを見送った。 「通って良いぞ」 兵士の言葉に軽く頭を下げ門を抜ける。 反対側にも兵がいるので木札を見せつつ場所を聞くと、近くの建物を指差していた。
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