31 神速の双剣

1/1
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

31 神速の双剣

黒騎士さんをバラした後、3人の目は出現した初回特典の宝箱に釘付けになった。30階層の時にはパッとしなかったので今回に懸ける期待は大きかった。 そして魔法の袋と腕輪、少量の宝石類を持ち帰り、期待を胸に鑑定結果を効くと、二つは『圧縮魔法袋』と『魔道の腕輪』と言うかなりレアな物だった。 『圧縮魔法袋』は小さく軽いながらもそれなりの量の収納が可能なもので、この世界の常識が覆されるほどの迷宮産の魔道具だった。王都でも数えるほどしか存在しないものだと言う。 もちろんオークションになる魔道具であったが、滅多に出るものでは無いので、僕に万が一のことがあった時に備え、カタリナに保管してもらうことにした。 もう一つの『魔道の腕輪』は、魔力の消費量を減らす効果があると言うので、魔法スキル特化のクローリーに使ってもらうことにした。 そして僕らは、王都でも数少ないS級冒険者となった。 僕は『神速の双剣』なんて呼ばれれることもあり、初めて面と向かって言われた時は、恥ずかしすぎて死んでしまうかと思った。 カタリナは『紅蓮の拳』と言われ、同じように恥ずかしがって両手で顔を覆っていた。女性ファンも多いようで、どうやらファンクラブが結成されているらしい。何度も言われているうちに吹っ切れたようだ。 クローリーは『はぐれ聖女』と呼ばれ「二度とその名を口にしたら死するです!」と脅して回っていたので、おおっぴろに言う者もいなくなっていた。現在は自分の二つ名を彼是と考えているようだ。 そんなクローリーに苦笑いする僕とカタリナだったが、急激に難易度が上がる41階層の先を抜け、恐らく最下層であると思われる50階層を目指してレベル上げを続けていた。 もう少ししたら二振りの魔剣をできる。 それを楽しみにしつつ、迷宮を踏破すべく今日もまた迷宮へ挑んでいた。 ◆◇◆◇◆ 「あいつは相変わらず遊び惚けているのか!」 私室で今日もロウデスの報告を受けた私は、目の前の男に声を荒らげ、ドカリと椅子に座り込んだ、 日を追うごとに嫡子、ロウデスへの怒りが募る。 神託の儀で『魔剣士』となり、その類稀な素養を見た時には、これで公爵家も安泰だと安堵した。まだスキルを授かったばかりだというのに、一介の騎士では歯が立たないほどの強さを見せ、思わず頬がゆるんだものだ。 だが今はどうだ。 その圧倒的な力量により敵をねじ伏せ、時折倒した相手を侮辱するなど自分の思い描く騎士道とは相反するその姿に頭を抱えてしまう。あのような性格だとは想像もしていなかった。 昔は良くイテイオに懐いており、「いずれ家を継ぐお兄様を支えて見せます」と言っていたことを覚えている。今はその面影もなく横柄な態度で街を闊歩していると聞いている。 そして今日もまた街に遊びに出かけ、素行の悪い若者たちのボスのようにふるまい、人様に迷惑をかけているのだとか… ロウデスには何度か直接、修行に励み態度を改めるように伝えたが、その時だけ受けの良い言葉を並べ、取り繕っているロウデスに嫌気がさし、今では半ば諦めていた。 そして、またも勘当したイテイオに関する報告が上がってきた。 帝国で冒険者として活動をしているイテイオが、頭角を現し『スーパールーキー』と呼ばれていることは以前も聞いていた。その時には嫡子として連れ戻せないかを目の前の、私兵の騎士隊の隊長を務める男に相談していた。 だが今度はS級冒険者?神速の双剣?やはりイテイオは私の息子だ。 双剣というのは少し気になるが、剣技によりのし上がっているというその情報に、若い頃の自分を重ね合わせ頬を再び緩ませる。 「なんとしても連れ戻せ!」 報告を伝えに来た男にそう伝える。 だが思うことがあり「いや、待て!」と出ていこうとする男を一度引き留める。 イテイオも、ただ戻ってこいでは納得しないだろう。 そう思って筆を執った。 イテイオを向かい入れ、正式に嫡子として保証することを認めた。癪ではあるが自分の考えが間違っていた謝罪する言葉と共に… 「これを、必ずお前と、補佐の数名で丁寧に持て成すように渡すのだ。イテイオが気持ちよく戻ってこれるよう、礼を尽くし渡すんだ。戻ってきたイテイオは嫡子となる。その事を頭に入れ接するのだ!分かったな!」 「はっ!」 しっかり伝えたがやはり不安になる。 あの男も男爵の出でではあるが、一応の貴族のプライドがある男だ。手違いとは言え今は平民となっているイテイオに、高圧的な対応をされては戻りたくても戻り難くなってしまうだろう。 早くイテイオに爵位を譲り、穏やかな隠居ライフを満喫したい。 そんな思いで机に肘をつき、ため息をついた。 ◆◇◆◇◆ 「やはり、そうですか…」 私室を訪れた当家の私兵、騎士隊の隊長を務める男の報告に眉間を抑え、湧き出る怒りをこらえていた。 この男は私の従妹にあたる家の出だ。 当主ヘルボメスの覚えも良く、ほとんどの情報を得ることができている。 以前にもあの女の生んだイテイオの動向をヘルボメスが探っているという報告を受け、実家であるマリストル男爵家当主、つまり実父であるエスカロス男爵に相談の手紙を送っていた。 それには『無限の光矢』なる凄い武器を手に入れたので、使いどころを考えろという返事が届いた。 合わせてそれの詳しい説明が書かれ、その伝説級の弓矢の効果に笑みが出たのを覚えている。 やはり、追放しただけではだめなのだ。 「こんな手紙!」 私はヘルボメスの書いた手紙を破く。 そして目の前の男に、まずは実家を訪れ『無限の光矢』なる武器を手に入れ、射撃スキル持ちで魔力の高い隊員を必ず連れ、誘い出したのちに必ず討ち取れと命じた。 もし適任がいないなら冒険者を何人雇っても良いことも告げ、金貨を30枚ほど手渡した。あまり自由になる資金は無い中での痛い出費ではあるが、このぐらいあればバカな冒険者が集まるだろう。 殺して冒険者同士のトラブルとして処理させれば良い。 そう思っていた。 「この家を継ぐのは、絶対にロウデスでなくては!そしてあの女を!牢にぶち込み兵の慰み者にしてやる!」 イテイオの母、ハレルヤの泣き叫ぶ顔を思い浮かべながら絶叫し、部屋を出てゆく男を見送っていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!