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第16章 狭まる捜査網
ゆきと重治が三春と常葉に設置されたどの避難所にもいないことがわかると、警察と消防組が一致団結して次に捜索すべき場所を検討していた。
「可能性があるのは三春の神社仏閣でしょうね」
「そこの地蔵堂にでも隠れているということですか?」
「ええ。そして頃合いを見て三春から高跳びしようという計画ではないでしょうか」
「するとその重治という輩がゆきさんを連れ回しているということですね」
「たぶん間違いなく」
次の捜索対象が確定すると、彼らは4班に分かれて三春の寺社の捜索を始めた。1班は大町と北町を、2班は新町を、3班は中町と八幡町を、そして4班は荒町を担当した。高橋は地元ということもあり、2班の中に加わった。
1班は荒町との境から先ず王子神社を捜索した。王子神社には磐州通りから上がる参道を行くと、そこに拝殿が現れる。小さな民家と変わらない大きさのそれは入り口の戸の隙間から中が簡単に覗けたので、そこに2人がいないことは簡単にわかった。
続いて彼らは紫雲寺に向かった。そこは、王子神社裏手の坂道を上がってすぐのところにあった。敷地内には梅の木の株だけが残っている「腹切り梅」があり、敷地も広かったが、朽ち果てた本殿しかなく、まさかそこに2人が隠れているはずもなく、一行は次のお寺へと向かった。
3番目に彼らが向かったのは、天神様と親しまれている北野神社だった。境内には大きな「なで牛」があることで知られていて、拝殿には人が隠れる空間もあったので、捜索隊は隠れているのならばここだろうという期待を持っていたのだが、その当ては外れた。
4番目のお寺は光岩寺だった。本尊の木造阿弥陀如来立像には胎内銘が確認され、鎌倉時代に九州の島原で作られたことがわかっている国認定の重要美術品である。天明の大火によって本堂が消失し、仮堂があるが、やはりそこにも2人は見つからなかった。
一行は最後に守城稲荷へ向かった。ここは鳥居から急な勾配を上がったところにあって、訪れる人も少ないことから、きっとここに隠れているだろうと期待を掛けて捜索に当たった。しかしやはり2人を見つけることが出来なかった。
一方、2班は先ず田村大元神社から捜索を始めた。川の流れていない橋を渡り、鳥居をくぐると階段が続き、やがて表門が現れた。この神社の敷地も広く、表門を入ると、左手から時計回りで、熊野神社、拝殿、拝殿の向こう側には本殿、八幡神社、神楽殿があった。捜索隊はそのひとつひとつを丹念に調べたが、人が隠れることの出来る場所は拝殿くらいしかなかった。そして拝殿には2人を発見することは出来なかった。2班に加わっている高橋は彼らが隠れているとしたらこの田村大元神社だろうと思っていたので、ほっと胸をなでおろした。
次に彼らが向かったのは、州伝寺だった。ここの本堂も人が隠れるほどの大きさがあったが、やはり空振りであった。
続いて3番目に向かったのは、真照寺だった。山門を抜けると左手には古四王堂があり、正面には本堂があった。そのどちらも人が隠れる空間があった。しかもそこは昭進堂のすぐ隣のお寺であったことから、高橋はもし2人が自分を頼って来て、そして自分が不在だったことから、とりあえず1番近いこのお寺のお堂に隠れていたらどうしようかと思っていた。しかし、高橋の願いが通じたのか、ここにも2人はいなかった。
「高橋さん、最後は天沢寺ですね」
「はい」
2班の最後の捜索場所は天沢寺だった。ここには本堂の他に身代地蔵堂があった。そのどちらにも2人が隠れている可能性があった。一行が山門をくぐって坂を上がって行くと、その地蔵堂と巨大な屋根の本堂が見え始めた。高橋はもし2人が見つかってしまうとしても、自分のいる班ではない部隊に発見されて欲しいと思った。高橋は彼らの無実を信じていた。しかし状況はその思いにかなり不利だった。それで彼らを確保して直に彼らが自分たちの非を認める光景を見たくはなかったのだった。
「ここにはいません!」
先に地蔵堂と本堂に走った組員がそう叫んだ。高橋はその言葉を聞くと安心して一言戻ろうとつぶやいた。
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