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第17章 来訪
「ごめんください」
その声に呼ばれて傳助の家の者が玄関に出てみると、そこには町長と警察署長が立っていた。それでその者は急いで主人である傳助を呼びに行った。傳助は2人の突然の来訪に驚いたが、どのような用件だろうと思い、応接間に2人を通すようにその者に言った。
「お二人が揃ってお越しになるとはどんな御用件ですか?」
2人が応接間に現れると傳助は彼らに軽く会釈をしてそう尋ねた。
「今、影山ゆきさんと常葉の影山重治という男が三春を逃げ回ってるという話はご存じでしょう?」
「そうなんですか。2人で逃げてるんですか」
「はい。そこで三春と常葉の避難所を当たったのですが、そこには2人の姿はありませんでした。それで今度は三春の神社仏閣に隠れているのではないかと警察と消防組とで手分けをして捜索をしたのですが、やっぱり2人を発見出来ませんでした。そこで最後にこちらにそのお二人がもしや潜んでいないかということになりましてね」
署長の話を聞いて傳助はとんでもない見当違いをしていると思った。
「めっそうもない。何を根拠に!」
「いえいえ、傳助さん、勘違いしては困ります。あなたがかくまっているという話ではないのです。こちらには彦右衛門の社がありますね。そこに2人が勝手に身を潜めているのではないかという話なんです」
「そんなことはあるはずがない」
「勿論私たちもそんなことはないと思うのですが、何せ大内のせがれが殺されておる。それで心当たりのところは虱潰しに捜索をせないかんのですよ。あなたが嫌な思いをされているのは重々承知しています。しかし、せがれを殺された大内さんも辛い。それにお役目で人を疑うようなことをせないかん、私たちも辛いんです。ですからここはみんなが堪えてですね。是非あなたにもご協力をお願いしたいのですが」
傳助もさすがに町長にそこまで言われてはうんと言わざるを得なかった。
「わかりました。それでは何をすればいいのです?」
「あの社には部外者は近づくことが許されないのが町の掟です」
「ええ」
「ですから、傳助さんに社まで行ってもらって、そこにあの二人が隠れていないか、それだけを見て来てもらえませんか?」
「そんなことでしたら構いませんが」
「そうですか。ご足労願えますか。ありがたい」
それから傳助は母屋の玄関に2人を待たせて、1人社に向かった。勿論そこには誰もいないことはわかっていた。わかってはいたが、実際に足を運ばないわけにはいかなかった。そしてとりあえず社まで行って、そして社の鍵を開けて中をぐるりと見回すと、再び鍵を閉めて母屋まで戻った。
「どうでしたか?」
傳助が母屋に戻ると早速町長が聞いて来た。
「誰もいませんでした」
「そうでしたか。ありがとうございました。本当にご足労をお掛けしました」
すると町長と署長は傳助に深々と頭を下げると帰って行った。
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