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「私もこのゆきさんの遠い親戚に当たるものです。それで、ゆきさんを小さい頃から見ていてその人柄もよく知ってるつもりです。また、大内のせがれ、つまり惣吉さんのことも同じ町の者として、やはりよく知っています。すると今、重治さんが言った正当防衛という話も本当によく理解出来るのです」
「では、信じていただけるのですか?」
「うん。しかし」
「しかし?」
「重治さんが言うように、惣吉の家が名士だということは確かです。そしてゆきさんが襲われたということもそのまま素直に認められるかどうか怪しいところです。つまり真実がまかり通るかどうかということが疑わしいわけです。だからもし今2人が出て行ったら、恐らく惣吉殺しの犯人に仕立てられてしまうでしょう。仮にゆきさんが無実だとなっても、重治さん、今度はあなたが惣吉を殺した犯人にされてしまうと思いますよ」
「そんな気がします」
「大内のせがれの許婚を騙して、それでそのせがれを殺めてしまったというあらすじが目に見えるように浮かんで来ます。ですから重治さんが言うように、一旦は遠くに身を置いて、然る後、親御さんに連絡を取るというあなたの考えに私も賛成です」
「ありがとうございます」
「そこでだけど神父さん、何か良い思案はありませんか?」
「そうですね。一旦この辺りで隠れる場所に身を置いて、町がいくらか静かになった頃に東京に出発するということでどうでしょうか?」
「うん。それがいいでしょう。しかしその一旦身を置く場所ですが」
「それでしたら私に心当たりがあります」
「それはどこですか?」
「それは私に任せてください。後で何かあった時に傳助さんがそのことを知らない方が良いと思います」
「何かあったら当然私も責任は取るつもりではいますよ」
「それはわかっていますが、2人の隠れ場所は私に任せてください」
「わかりました」
それからゆきと重治は神父に連れられて傳助の敷地から姿を消した。傳助はきっと三浦神父の教会の中に身を潜める場所があるのだろうと推測したが、それについて語ることはしなかった。
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