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第4章 三春天正縁起
「高橋さん、ありました!」
それは日が落ちて暫くした頃だった。閉館時間はとうに過ぎていたが、明日またこの作業をしようとはとても思えなかったので私と佐久間という職員はあれからずっと文献の捜索を続けていた。そしてその文献がやっと見つかったのだった。
私が佐久間さんから手渡された本は表紙が汚れていてかび臭い悪臭を強く放っていた。それでも月明かりにその題字を確認すると、そこには「三春天正縁起」という文字を読み取ることが出来た。
「ちょっと貸してください」
私が本の題を確認していると佐久間さんはその本を私から取り上げて中を急いでめくって行った。そしてある場所に到達するとそこを大きく開いて再び私に返した。
「高橋さん、この図を見てください。これ、鳩と木瓜ですよね。これって高橋さんがおっしゃってたものじゃないですか?」
「おお。確かにこれです。これは以前判じ絵だと聞きましが」
「はい。これは判じ絵だそうです」
「やはり判じ絵ですか」
「はい。言葉を絵に置き換えたなぞなぞの判じ絵です」
「するとこの鳩と木瓜は何と読むのですか?」
「それはこの細かい文字で書かれた説明にあると思いますが」
そこは暗い場所だったので私は明るいところにそれを持って行って見たかった。しかし図書館も閉館してしまったし、仕方なく今日のところはお開きにして明日また詳しいことを調べることにした。
「佐久間さん、この本を借りて行っていいですか?」
「それはちょっと」
「どうしてですか?」
「だって貸し出しの手続きをしないといけませんし、と言っても閉館時間はとっくに過ぎてますから」
「でもこの本は捨てられていたのも同然の状態だったんですよね?」
「それはそうですが一応町の財産です」
「明日返します。開館前に返しますから、それならいいでしょう?」
「困ったなあ」
「だって館長は見つかったら持って行っていいと言ってましたよ」
「それは貸し出しの手続きをしてからという意味だと思いますよ」
「固いことを言わずに、ね?」
「もう、しょうがないなあ」
私はそう言って強引にその本を借りてしまった。私はなるだけ早くあのツバとかんざしの秘密を知りたかったからだった。それから飛んで自宅に戻るとその本を最初から勢いよく読み始めた。
そこには天正時代にこの三春でどのようなことがあったのかが書かれてあり、それを現代の言葉に直したものが添付されていた。もっと詳しく言えば、天正十四年、相馬顕胤の娘が三春城主になった時に、田村家中が二つの派に分裂した時のことがわかりやすく書かれてあったのだ。
私はこの話なら三春の人間みんなが知ってることだと思った。しかし、このこととあの判じ絵がどう関係するのだろうかと思った。それでわかりきった話だったが仕方なくその先を読み続けることにした。
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