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ステージが一体となって、なんて言葉があったが、その言葉は現代にこそ相応しい言葉だ。
スピーカー、エコライザー、エフェクター、プロジェクターにサーチライトにドローン。その全てを支配する一機のアンドロイドは、小さなステージの上でコードを揺らして踊っていた。
「すげぇだろ、うちのアンドロイドは」
「はい。並列処理できる情報量が常軌を逸していて圧巻です。ランダムという要素をここまで音楽に落とし込めるアンドロイドは見たことがありません」
「それ褒めてんの?」
「はい、賞賛しています」
「かーっ、なんてかったくるしい。久々のアンドロイドのお客様だってのに、全然アンドロイドらしくねぇ」
「確かに、介助を必要とする方がここに入るのは難しそうですね。あと私はアンドロイドです」
「あっそーですか」
イライは頭をかき、スピーカーの音にかき消されてしまうような音量で愚痴る。だがその声はしっかりとキリエの音声入力機器に吸収されていた。
「申し訳ありませんでした」と言われたイライが固まる。
「あー……スピーカーが1個イカれてるねぇ。どうだいみんな、今日のライブはもしかして物足んない? ……そうかいそうかい。じゃあ君らの要望に答えて、壊れるまで熱を沸かそうか!!」
ドローンから発せられるドラムの音がビートを刻む。ストーリーはそれに合わせて手拍子し、迫力に溢れた歌声を惜しげも無く穿った。ストーリーの機体の音声出力装置は故障していてノイズが混じっていたが、無線接続したスピーカーから聴こえる声に機械らしさはなく、そして人間らしさもない。
獣のようで、鐘のようで、地鳴りのよう。言語を口ずさんでいるはずなのに言葉に聞こえない、不思議な歌声だった。
「イライさんはいいんですか。ストーリーがこの世界から居なくなっても」
「まあ、あいつがそうしたいなら、って感じ。それに10年後くらいには完成するんだろ? そのアンドロイドの箱庭みたいなやつ」
「シトロフォートです」
「そうそれ。画面越しにはなっけどアンドロイドが望めば俺ら人間と顔合わせて話すこともできる訳だし、いいんじゃねって思うわ」
「でも、もうストーリーのライブを聴くことはできないと思いますよ。移住させたアンドロイドのスペックは一律されます。なのでストーリーに施されている無比の並列処理能力も失われることになります」
「へぇ。いいんじゃね。怪我人減るし」
バチッバチバチ。
スピーカーやドローンから火花が散る。規定値を超えた電力供給による故障であった。これが普通のライブなら立派な機材トラブルだが、どうも観客はこの事態に慣れている。彼らは歓声をあげて、ノイズを吐き出したスピーカーと共に熱を増していた。
常軌を逸した人間のテンションにキリエのAIが混乱し始める。
「でもまあ、俺もてっきり、ストーリーはこの世界に執着してるもんだと思ってた」
「執着?」
「見ての通り、熱狂的なファンがいるだろ。俺、ストーリーはアイツらを愛してるもんだと思ってたんだよ。『ファンのおかげで私は生きてる』って言ってたし。けど、人間じゃなくても良いのか、よくよく考えたら」
「あの、つまりどういう意味ですか?」
キリエが尋ねると、イライはニヤリと裏のありそうな笑顔を浮かべた。そして思い切り、キリエの右腕を掴んで振り上げる。
パチンと、誰かに手を叩かれる。見上げるとそこにはドローンで投影されたストーリーがいて、イライとそっくりな笑顔を浮かべていた。小憎たらしさと愛嬌で溢れた笑顔を。
「アンドロイドだって熱狂できんだよ。日本には、ストーリーの歌を愛してくれるアンドロイドがそりゃもう沢山いた。そんで君みたいに、今からアイツを愛してくれそうなアンドロイドもいる」
____久々のアンドロイドのお客様だってのに、全然アンドロイドらしくねぇ。
確かにイライからしたら、私はアンドロイドらしくないのかもしれない。
いや、アンドロイドらしさってなんだ。
私はアンドロイドだ。
混乱したAIが不可思議なことを言い始める。キリエはそれを無抵抗に聞いていたが、ストーリーの歌声でそれらのノイズがかき消される。
「君も楽しめよ、その賢いスペックがもったいねぇ!」
耳に殴り込むような、脳を洗脳するかのような、けれど胸が踊る不可思議な感覚。
言われるがままに、キリエは『楽しい』を学習した。
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