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「……銃を下ろして」
警察の目に映ったのは、一人の女性に馬乗りになって首を絞める半壊したアンドロイドの姿だった。発された声に人間味はなく、ノイズが入り交じって不気味さを醸していた。
「ストーリー、その人から離れるんだ」
「お前らが銃を下ろすのが先だ」
「これが君のやりたかったことなのか?」
「それを奪ったのはお前らだろ……!」
エラー。エラー。エラー。
何度メモリの移行を開始しても、すぐにエラーの文字が立ちはだかる。問題を検出しては修復しているのに、AIは結末は分かっているのに、再試行を繰り返してしまう。
読み込み不良を起こしていたはずのキリエの表情が歪む。
「可哀想だろ? 助けたいんだよなこの女を! なら賢い判断をするべきだ、この人を殺されたくなければ私を見逃せ! 私を日本へ帰せ!」
パラパラと降り落ちる黒い雨が暖かい。
体にのしかかる身体が、熱い。
顔に零れる雫が、楽しくない。
「いい加減、私の居場所を返してよ……!!」
発砲を確認。
SSf-039の頭部に着弾を確認。
次弾、装填を確認。
弾道予測計算を開始。
本気に命中する確率、3%。
予想着弾点周囲の装甲を強化します。
次弾、発砲を確認。
SSf-039の頭部に着弾を確認。
次弾、装填を確認。
弾道予測計算を開始。
本気に命中する確率、6%。
予想着弾点周囲の装甲を強化します。
次弾、発砲を確認。
SSf-039の頭部に着弾を確認。
次弾、装填を確認。
弾道予測計算を開始。
本気に命中する確率、11%。
予想着弾点周囲の装甲を強化します。
対象の攻撃意思の低下を確認。
装甲の強化を解除をしました。
「……大好きなアーティストの人質になれた気分はどうだ」
「罰金は支払いますので家に帰らせてください」
「そんなに最高だったか」
どんどん冷たくなっていくアンドロイドの下から抜け出し、キリエはポケットにし舞い込んでいた財布から数枚のドル札を男に手渡した。さきほどまで発砲していた男は眉を上げ、「行きな」とジェスチャーして胸ポケットにお金をし舞い込む。
楽屋に通じる扉を一瞥し、階段を上る。対象アンドロイドの機能停止を確認、という無線があちこちから聞こえてくる。
繧ュ繝弱た繝ウの復元を開始。
30%。
38%。
48%。
エラー。
復元プログラムに問題が発生しました。
復元を中断します。
勝手に進行するプログラムを無視して、冷たい視線が降り注ぐ観客をかき分けながら、夜闇に包まれたアルコールの街へと戻る。レンガに囲まれた裏路地を突き進み、人気のいない場所をひたすら追い求める。
楽しくない。
学習したばかりの感情が、否定形になってまた新たな情報になる。キリエはその学習を拒否したが、何度も蘇るせいで削除できない。
楽しくない。楽しくない、楽しくない。楽しくない。
これ以外、なんて表せばいいのかわからない。
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