2.ユリシーズ

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「……また来たのね」 「おはようございます、アシュトンさん。今日は洗濯物日和ですね」 「昨日の話を覚えていないのかしら。アンドロイドは珍しいアクセサリーを身につけているのね」 「私はあなたの言葉を疑っているのではありません。私の耳も飾りではありません。今日はお詫びに来ました」 「お詫び?」 子供型アンドロイドは他シリーズと比べて小さく、加えてメールや通話、検索といった機能が制限されているため、外部にアクセスすることが少なく逆探知が難しい。故に他シリーズと比べて隠匿しやすい。 「どうやら私は、あなたはアンドロイドを愛していると勘違いしていたようです」 体温の上昇を検知。 発汗を確認。 周囲の環境に目立った変化なし。 文章生成AIと並行して、ギルダの様子を分析するAIが異変をキャッチする。しかし挙げられる要因が絞りきれず、キリエは生成された文章を読み続けた。 「けれどそれは誤認でした。あなたはアンドロイドを、ただの愛玩道具としか思っていなかった。そうでもなければ警察の手も借りずに破壊することはできません」 腕が震えている。 キリエの目に映るギルダは無意味に全身の筋肉を強ばらせていた。力強く手を握りしめ、ギリギリと奥歯を噛み締め、表情筋を戦慄かせている。そして単調に言葉を並べるキリエを睨みつけていた。 「あなたは国に貢献した、誇るべき素晴らしい人間です」 ギルダの脳裏に、毛布を被って、震える子どもの姿が過ぎる。 ニュースを見て涙を流す子どもの姿が。 お母さんと、自分を呼ぶ子どもの姿が。 何気なく言ったキリエの言葉が、ギルダの決して癒えない傷を抉った。 「国なんて……国なんて、どうでもいいのよ……!!」 ギルダはキリエの襟元を掴み、叫んだ。喉からひねり出されたような、歪んだ音が部屋に響く。 「アンドロイドに人権? 人間に危害? くだらないくだらない!! 私たちが見据えるべき先はどこ? 100年後のこの国? 200年後の国? 違うわ、ぜんっ然違う。私たちが見なきゃいけないのは、明日の私たちよ、明日の我が子たちよ……っ」 ふぅふぅと息を荒らげて、ギルダが叫ぶ。足元はふらついていて、今にも倒れてしまいそうだった。 キリエはすかさず彼女の腕を掴み、肩を組んだ。ギルダはそれを拒んだが、次第に肩にかかる重みが増していく。 ギルダ・アシュトン。 子供型アンドロイドの購入履歴あり。 購入理由、明記なし。 備考、6年前に乳がんを発症。 リビングに向かいながら今までに収集した情報を整理するも、ギルダが怒ってる理由をキリエは理解出来ずにいた。
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