第二章 嘆息

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 救助隊員やはしご隊員は、その任務の過酷さから、隊長、隊員、それぞれ任務に就くことができる年齢に、一定の制限が設けられているのだ。ただ、御多分に漏れず、ここにも高齢化の波が押し寄せているのが現実である。規定の通りに人事運用を行うと、適任者を当てられるのかどうかという問題が発生してしまうので、そのあたりの線引きはあいまいになっているのが現実だ。 「湯沢隊長はいつも心穏やかでうらやましいっすよ」  二人は、互いの右足で基梯部を支え、梯子を起こした。  義仲は先端を見つめながら、引き綱をぐいっと引いた。軽い金属音とともに掛け金が外れたことを確認し、引き綱を緩める。がしゃんがしゃんと音を立てながら、先端部、二連部がはしご本体に収納されてゆく。 「なして」  湯沢は、それがどうかしたのかとでも言いたげな、抑揚のない声で訊いた。  七三分けの、簡単にはかんしゃくを起こしそうもない柔和な表情は、見る者を安堵させる。義仲は、湯沢と一緒に勤務するようになってから、彼が怒鳴るところを見たことがなかった。  はしごの先端が収納されるのを確認すると、義仲は「よしっ」と呼称し、余ったロープを横さんに巻き結びする。はしご内部の連結部分が飛び出さないための処置だ。 「ロープの固定、よしっ」 「何かあったのかい」  義仲の動作が途切れる時を見計らっていたのだろう、湯沢が、はしごを支えた状態のまま声をかけた。
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