第二章 嘆息

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「はあ、まあ、ちょっと」義仲は手を止めた。  義仲は湯沢を何かと頼りにしていた。現場経験も豊富だし、隊長職の先輩でもある。家庭を持っているが子供はない。そのせいか、あまり生活臭いことも言わないので、独身の義仲にしてみれば、あれこれと話しかけやすい先輩だった。幸い湯沢も義仲のことを「チュウさん」とか「チュウ」と気安く呼んでくれるので、こちらとしても気兼ねなく話ができた。 「倒します」義仲は両手を上げ、はしごの主かんを支えた。  おいよ、と湯沢がおどけて返事をし、はしごを静かに倒す義仲ははしごを支えながら、徐々に先端部分へ移動する。肩の高さのところではしごを九十度起こし、右腕を通す。この時後方では湯沢が基梯部を持ち上げ、一連の動作で義仲と同じように、右腕を通す。 「発進ようしっ」  後方にいる湯沢の合図で二人は移動を開始。はしごが積載されていたポンプ車へ向かう。  三連はしごの取り扱いは、消防職員として採用されてからおよそ二十年、訓練のたびに行われてきた作業である。基本動作は体に染みついている。たとえ隊長という立場になっても、頭で考える以前に身体が反応する。してしまう。 「で、何があった」
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