3.日常

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3.日常

 ガタッ ダン    ガタッ ダン   キー キー  ガタッ ダン    ガタッ ダン   キー キー  僕の名前は水城一都(みずきいちと)。  毎日週5でこの地下鉄に乗っている。  仕事は今時のIT系――と言えば聞こえは良いけど、別名『IT土方』。  頭を使った肉体労働という感じで、毎日仕事が終わったらグッタリだ。  そんな疲れた体を少しでも労るために、僕は毎日、女性専用車両に乗車している。  ――おっと、そんな白い目でみないで欲しい。  女性専用車両に男が乗ってはいけない、という法律的な強制力は無いのだという。  男性が女性専用車両に乗らないというのは、あくまで『任意協力』なのだそう。  ちゃんと検索サイト(ゴーグル)検索し(ゴグっ)て調べたから間違いない。  僕は仕事で疲れきっているので、任意協力する体力は無い――というのが、僕の理論武装。  一応、万が一うるさいおばちゃんに絡まれた場合に備えて、隣の車両にすぐに移動できるポジションを確保している。  でも一度も注意や文句を言われた事ないけどね。  他の車両に比べたら、女性専用車両は少し空いているし息がつける。  そもそも僕はどんな美人にも反応しないくらい疲れているんだから安心して欲しい。  僕の癒しは僕の部屋で待っている飼い猫の黒次郎(くろじろう)くらいなものさ……。  この女性専用車両には、僕を含め4人の男が常連客としている。  お互いに話したことはないが、きっと皆、気持ちはひとつだろう。 『戦友』。  きっとそうだ――。  この地下鉄は地方都市の都心から郊外へと向かう物で、僕が降りる駅は終点の3つ手前、富師見(ふじみ)駅。  僕の降りる駅の二つ手前からは地上に出る。  さらにその4つ手前の駅に、僕の乗っている列車が近づいているところだった。  この駅、浅見無(あさみず)駅が少し不思議で、ドアが開くとプールの塩素臭がするのだ。  ――ほら、塩素臭。  何気なくスマホの時計を確認すると、23時21分。  この次の駅までは結構長くて20分くらい掛かる。  普通の二駅分くらいはある気がする。  そして、途中に作りかけの駅みたいなホームが電車の進行方向を見て左側に見える。  きっと本来ならばこの駅があれば駅の間隔は普通の距離になったのだろう。  駅名は暗闇の中確認すると『深蠢■駅』とうっすらと読める。  ――しんしゅん? ふかむし? えき? 『■』のところだけはどうしても字が読めないんだけどね。  とにかくその、明かりも点いていない作りかけの無人のホームを通過すると、とても嫌な感じがするんだ。  車内の電気が、チチチ、って音を立てたり、時には、ジージー パチッ、って一瞬消えそうになるし。  うなじあたりの毛が立つ感じがしてゾワゾワするし。  そういう理由で、僕は反対の右側に立つ事にしている。  これからずっと右側のドアが開くから、本当は左側にいたいんだけど、本当に気持ち悪いから仕方がない。  ――ほら、チチチと音を立て始めた。  あー、イヤだ、イヤだ。  チチチ チチチ パチッ   バチッ!
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