第3話 侍女オリーヴィアは同席しない

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第3話 侍女オリーヴィアは同席しない

「どうぞ、ヴィルフリート殿下」  執務室で、オリーヴィアは紅茶を差し出す。それは侍女というよりも高貴な令嬢というべき完璧な所作だった。 「……オリーヴィア、お前もたまには座って飲んだらどうだ」 「いえ、私は侍女ですので」  しかし、主に勧められても同席を断るのは侍女そのもの。堅苦しいヤツだ、とでも聞こえてきそうな顔をされたが、オリーヴィアは迷いなく答える。 「……俺は今日は休むと決めた。お前だけ仕事をすることもあるまい」 「第二皇子殿下と侍女が同席するわけにはいかないでしょう」 「俺が良いと言っているのだ、何を気にすることがある」  三度誘われた……。オリーヴィアは少し考え込む。  ヴィルフリートは“氷の皇子”などと呼ばれているが、それはヴィルフリートをよく思わない貴族達の誤解のようなものだ。確かにいつも無表情だし、なんなら少し不機嫌そうだし、言葉もぶっきらぼうで偉そうだし、害のある者と分かれば貴族でもなんでも斬って捨てるし……とその異名に(たが)わぬ側面はあるのだが、実は優しい人だ。しかも、相手の身分や立場で差別しない寛容(かんよう)さというか、有益であればそれでよしとする革新的な意識の持ち主でもある。  そんなヴィルフリートが「気にせずに共に紅茶を飲もう」と三度も誘ってくれた。  これ以上断るのはかえって不敬に当たるだろう。そう判断したオリーヴィアは「では、失礼いたします」と棚からもうひとつ茶器を取り出す。  そうして紅茶を口に運ぶと、ふわりと懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。
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