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「3日後の夕方、オリーヴィア様はなにかご予定はございますか?」
「いえ、なにもございません」
「そうですか、それならよかった。3日後に急遽フロレンツ殿下が夜会を催すことにしたとのことで、オリーヴィア様にもぜひご出席していただきたく」
……フロレンツ主催の夜会。オリーヴィアは若干頬をひきつらせた。
「……それは」
「申し訳ありません、もちろん気が進まないのは承知しております」
元婚約者主催の夜会の手伝い、そんなものを押し付けてしまい申し訳ないと、グスタフは珍しくその眉尻を下げた。グスタフは若いとはいえ、あの“氷の皇子”が直々に指名した才人だ。大変有能なのだが、その表情は常に無で、その声にも大して抑揚がない。
「こう言っては邪知深いと仰られても致し方ないとは思いますが、ヴィルフリート殿下のためにも何卒」
「いえそこまでは申し上げませんけれど……」
確かに命の恩人のためと言われては断れないが。オリーヴィアはうーん、と眉を寄せてしまった。
オリーヴィアの元婚約者・フロレンツ第一皇子は、オリーヴィアとの婚約破棄後、即座にハーゼナイ伯爵の令嬢フリーダと婚約していた。フロレンツは第一皇子、侯爵令嬢とされていたオリーヴィアがその婚約者の座に収まって涙を呑んだ令嬢は多く、つまり邪魔者がいなくなって即座に「夜会へのご招待」という名の婚約申込みが殺到したのだ。
それはさておき、そんなフロレンツはうっかり会うと「私を誑かそうとした不埒な女め」とオリーヴィアを睨みつつ「お前などいなくとも私は引く手数多である」と嘲ってくるし、その婚約者フリーダ嬢も「しょせん偽物の貴女と違って伯爵令嬢の私は勝ち組よホホホ」と蔑んでくる。正直どうでもいいが、わざわざ目の前で相手をしたい二人組ではない。
「……殿下のためであれば、仕方がないとは思いますので……」
「いえ、もとはといえば殿下に原因のあるお話ですから。もちろん、準備はこちらで手配しておきます」
「いえ、そこまでしていただく必要は。しかし、そう仰るということは、殿下も夜会にご出席を?」
ヴィルフリートは、既に二十三歳という身でありながら婚約者がいない。しかも「なぜ見ず知らずの令嬢の手を取ってダンスなんぞしなければならん」と文句を言ってほとんど夜会に出席しないのだ。
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