第3話 侍女オリーヴィアは同席しない

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 もちろん、夜会に出席せずとも誘いはある。特に第一皇子と第二皇子は皇位継承順位が同列、つまり理屈上2人のどちらが上ということもないため、貴族達はこぞって釣書きを送るが、ヴィルフリートはそれを(ことごと)く火にくべているのだ。理由は「婚約する必要がない」の一言。確かに、世継ぎは皇帝となってからでよく、妃はそのときになって選べば事足りる。どこまでもヴィルフリートはぶれない。  でも、少しは女性に慣れておいたほうがいいのでは。自分が知る限りヴィルフリートは乳母以外の女性とろくに話もしていないし。そんなお節介なことを考えてしまっていたオリーヴィアにとって、そのヴィルフリートが夜会に出席するというのは寝耳に水であると同時に成長の第一歩でもあった。 「一体どういった風の吹き回しなんでしょうか」 「今回はフロレンツ殿下ご主催ですし、ブーアメスター侯爵やイステル伯爵もわざわざ遠方からいらっしゃるとのこと。顔を見せておくに越したことはございませんから、私が進言いたしました」 「あ、なるほど。そういうことですか」  しかし、例によって頭の中は仕事仕事仕事。真面目なのはいいことだが、もう少し隙があってもいいのではなかろうか。これまたお節介なことを思ってしまった。 「もちろんあの殿下のことですから、このグスタフの忠言を素直に聞き入れることはしないでしょう。オリーヴィア様からも畳みかけておいていただけますと助かります」 「承知いたしました、たまにはご出席するのも仕事のうちとお伝えいたします」 「助かります。あの殿下も、いい加減婚約者の一人や二人見繕うべきですからね……」  溜息交じりのグスタフには同情してしまった。側近グスタフの出世はヴィルフリートにかかっているのだ。 「いつものことながらお疲れ様ですね、グスタフ様。私からもそうお伝えしておきますので」  あの氷の皇子の側近としてただでさえ忙しくしているだろうに、こんなお守りのようなことまでさせられて。仕方のない人ね、とオリーヴィアは姉のような気持ちでヴィルフリートのことを思い浮かべる。3日後の夜会にはなにがなんでも出席させなければ。  そう決意していたオリーヴィアはグスタフの微妙な表情に気が付かなかったし、グスタフも「婚約者の話はオリーヴィアからしないほうがいい」とは言えなかった。
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