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第4話 氷の皇子は夜会に出る
廊下を歩いていたヴィルフリートは、前方から歩いてくるフロレンツを見た瞬間に苦虫を噛み潰した。
「やあ、ヴィルフリート。調子はどうだ」
「別にいつもと変わりありませんが」
本当は舌打ちをしたいくらい不愉快だったが、さすがのヴィルフリートも思い留まった。しかしその内心は伝わったのだろう、フロレンツもいささか不愉快そうに弟を睨みつける。
「ということは、調子が悪いんじゃないか? やはりアインホルン王国との停戦は判断ミスだったのだろう」
「何がミスだったというのです」
「あのまま続けていれば今頃アインホルン王国は我が帝国のものであった。お前の判断は臆病であったと言っているんだ」
「その可能性もあったでしょう。しかしイステル伯爵軍は限界が近く、いつアインホルン王国にその領土を攻め落とされてもおかしくなかった。その確率は五分でした」
「それが臆病者の公算というのだ。だからお前は駄目なのだ」
立ち話ついでの嘲弄はこの兄弟で日常茶飯事だ。フロレンツは、フン、と偉そうに鼻を鳴らしてすれ違い――「ああそうだ」と思い出したように振り返る。
「お前、今晩の夜会には出席するのか?」
「しますが、それが何か」
「いや、いい加減婚約者を見つけたらどうかと思ってな」
余計なお世話だ、と内心で毒づいた。お互い立場は対等、それだというのになぜ婚約者がいるだけでそう偉そうな態度を取れるのか。
「お前ももういい年だろう。婚約者がいないせいで夜会に出席できないなど恥ずかしくないのか?」
「ご心配には及びません、兄上。恥ずかしいのではなく興味がないので出席しないのです」
「それならいいが、この兄は弟のことが心配でならなくてな」
自分と似ても似つかぬブルーの瞳は、しかしいつもそうしてヴィルフリートを見下しているのが丸わかりだ。
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