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「あれではオリーヴィアと踊れぬ」
「でしょうね。諦めて他の令嬢と踊ってください」
「なぜ自らそのような苦痛に耐えねばならん。第一、オリーヴィア以外の女と踊るなど不義理もいいところだ」
「殿下とオリーヴィア様はただの皇子と侍女ですので、雇用以上の関係はございません」
「貴様は俺の敵味方どちらだ? 俺は敵を生かしておくほど気が長くないぞ」
ヴィルフリートの手の中で腰の飾り剣がカチリと音を立てた。飾りとはいえヴィルフリートの腕があればそこらの鈍以上には切れ味を発揮するだろう。
「殿下、そうお怒りにならず」
「これが怒らずにいられるか」
「最後まで私のお話をお聞きください。このグスタフ、一の手を打つ際に二の手を考えぬほど愚かではございません」
「次の策があるというのか」
「他の令嬢と踊ることでオリーヴィア様を焚きつけてはいかがでしょう」
「どういう意味だ」
その因果が全く理解できず、ヴィルフリートは苛立ちに任せて舌打ちした。それを聞いてしまった全く無関係の指揮者は「氷の皇子の気に障った」と勘違いし慌てて合図をし曲調を変える。しかし始まったのがラブロマンス系であったためヴィルフリートの苛立ちが募った。
「よろしですか、殿下。殿下は口を開けばオリーヴィア様のことばかり、他の令嬢には目もくれません」
「どいつもこいつも目障りなのだから仕方あるまい」
「最後まで私のお話をお聞きください。ですからオリーヴィア様の中では危機感が育たないのです」
「危機感?」
「このままでは殿下がどこぞの令嬢と懇意になってしまい、オリーヴィア様に見向きもしなくなるのではないか、という危機感です」
それの何が悪いというのか。ますます理解できず、ヴィルフリートはしかめっ面をした。オリーヴィアの心を徒に波立たせるなどしていいはずがない。
「端的に、たまにはヤキモチを焼かせようとしてはいかがですかと申しております」
「……なるほど嫉妬か」
が、さすがのヴィルフリートもそこまで言われると理解した。今度のグスタフはしっかりと頷く。
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