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しかし、フロレンツとヴィルフリートの皇位継承権は同順位。そのことについてエーリク皇帝は「フロレンツとヴィルフリートのどちらか“皇帝に相応しい者”にそれを継承する権利を与える」とだけ告げた。
以来、もともと大して仲良くなかったフロレンツとヴィルフリートの仲は輪をかけて悪くなり、フロレンツは何かにつけてヴィルフリートの不適格さを指摘するようになった。
今もそうだ。婚約者のいないヴィルフリートに見せつけるようにフリーダの腰を抱く。
「皇帝に相応しい者の要件とはなにか? 色々あろうが、中でも重要なものは知恵、能力、野心、そして――なにか分かるか?」
「さあ、なんでしょうね」
「美しい妃だ、ヴィルフリートよ」
「あら殿下、いくら将来の弟の前とはいえ恥ずかしいですわ」
乳繰り合うなら部屋でやれ、誰も見たくなどない。
「であれば兄上は既にひとつ要件を欠くようですね。美しい妃などどこにもいない」
「フリーダの美貌が分からないとは、可哀想なヤツだな」
実際、フリーダは帝国内で一、二を争う美姫と名高い。そのアイスグリーンの髪も瞳は宝石のように輝き、丸く大きな瞳は少女の無垢さを失わず、白い肌はまるで陶器のよう。深窓の令嬢という表現がぴったりだ。
しかし、ヴィルフリートに言わせれば「フロレンツのブラウンの髪の隣に並ぶとまるで地面と草でお似合いだ」。さすがのグスタフも、初めてそれを聞いたときには声を上げて笑ってしまったし、以来、フリーダを見る度に「草」と笑ってしまうようになり、少し恨んでいる。
「まあヴィルフリートよ、皇位継承争いから降りるつもりになったらいつでも言え。血を分けた弟なのだ、悪いようにはしない」
「ごきげんよう、ヴィルフリート殿下」
「兄上なんぞにこの帝国を任せた日にはアインホルン王国に乗っ取られておしまいだ、まったく」
立ち去る二人の背中に向けて悪態を吐いておいた。フロレンツは貴族連中に対する外面はいいが、その政治手腕は額を押さえたくなるほど酷いもの。皇帝なんてものに興味はないし、なんなら公爵にでもなったほうが堂々とオリーヴィアを娶れるが、あの兄にこの帝国を任せた暁にはオリーヴィアとの平穏な毎日なんて夢物語となってしまう。それは避けなければならない。
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