341人が本棚に入れています
本棚に追加
「しかし殿下、フロレンツ殿下のおっしゃるとおり、そろそろ婚約者を見つけては? 別にオリーヴィア様とご婚約なさっても構いませんが」
「なにが構わないだ、それができればとうの昔にやっている。お前は馬鹿なのか」
馬鹿はお前だと言いたいのをぐっと堪え、グスタフは参加者を見回す。オリーヴィアに夢中なヴィルフリートは見ていて面白いので、その関係は応援しなくはない。しかしオリーヴィアが爵位もないどころか咎人であるというのはなんとも体裁が悪いのだ。
しかしこうして見かける令嬢は既にヴィルフリートが手酷くフッた者ばかり――と思いきや、見慣れぬ令嬢を見つけて目を瞠った。ブーアメスター侯爵の隣にいるからその娘だろうが、全く見覚えが……。
「なんだグスタフ、そろそろ帰るか」
「来たばかりです、殿下。ブーアメスター侯爵がいらっしゃいますのでご挨拶を」
帝国内北部の辺境伯だ。強欲なわりに能力がなく、ヴィルフリートにとっては気に食わない相手だが、その領地は帝国領土の最北端。まさしく、フロレンツとの皇位継承争いにあたって押さえておきたい相手だ。それが向こうからすり寄ってくるというのあれば味方にしない手はない、とヴィルフリートは仕方なく顔を向けた。
「ご機嫌麗しゅうございます、殿下」
「ああ。昨今のカッツェ地方の様子はどうだ」
「あまりよろしくないですな。雪解けを迎えたとはいえ、元来食料に乏しい北国です。ただでさえグリフォン王国がその勢力を徐々に伸ばしているというのに……」
だが、もったいつけた話ぶりに途中から聞くのをやめた。状況が悪いだけの報告なら誰でもできる、その打開策を考えろと言っているのだ。
「……そういうわけでして、殿下、カーリンと一曲踊っていただけますでしょうか」
「なんだと?」
お陰で何を言われたのか分からなかった。しかしブーアメスター侯爵の隣ではその令嬢が微笑みながらドレスを摘まんでお辞儀をし、そのコーラルレッドの脳天を見せている。
勝手に決めるな、誰がオリーヴィア以外の女と踊るものか――と口を開きかけたヴィルフリートだったが、グスタフの助言を思い出して思い留まる。
たまには翻弄なさっては――。ちらと視線を遣った先のオリーヴィアは踊りを終えた貴族達に酒杯を差し出しているところだった。
最初のコメントを投稿しよう!