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しかし、オリーヴィア自身、自分がアーベライン侯爵の血を引いていないことは知っていた。その意味で自分はアーベライン侯爵と同罪だ。
そしてアーベライン侯爵家は、オリーヴィアに一応の衣食住を与えてくれた。皇妃にふさわしいようひたすら厳しく教養を叩きこもうとしたし、言うことを聞かなければ散々に罰を与えてきたが、それでも自分を生かしてくれた。あのまま人買いに連れられていては、幼女趣味の貴族に買われ、まるで畜生のように扱われていたかもしれない。
それならば、この自分の首でアーベライン侯爵の命を助けてもよかろう。オリーヴィアは、アーベライン侯爵に頭を押さえつけられたまま、じりじりと姿勢を正し、絨毯に手と額をつく。
「……エーリク皇帝陛下、フロレンツ皇子殿下。この度は我が身のためにお騒がせしてしまい申し訳ございません。私の首は差し上げますので、どうぞ養父をお助けください」
「陛下、このとおりでございます」
オリーヴィアが頭を上げないと分かったからか、アーベライン侯爵も隣で額を絨毯に擦りつけるのが見えた。
悔いはない。オリーヴィアはもう一度目を閉じた。ここで私の人生は終わるが、私の首が養父を助けるかもしれない。それならば、私の人生にも幾分かの意味はあったというものだ。
「陛下、アーベラインを含むすべての者の首を刎ねましょう。そして首謀者たるオリーヴィアにつきましてはそれだけでは足りません。その身を吊るし、焼き、城門に晒すべきです」
「陛下、どうかお許しを!」
フロレンツ第一皇子が苦々し気に最悪の決定を下すのに対し、アーベライン侯爵がもう一度顔を上げながら嘆願する。
「……そうだな――」
それに対し、エーリク皇帝が頷く。
「お待ちください」
そこに、四人目の声が割り込んだ。
オリーヴィアは顔を上げなかったが、その声の主はよくよく知っていた。ヴィルフリート第二皇子だ。
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