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「アーベライン家すべての者の首を刎ねる、それはよいでしょう。しかしオリーヴィアに関してはその責を負わせるべきでないと考えます」
「貴様は黙っていろ、ヴィルフリート!」
「いえ黙りません、兄上」
ヴィルフリートは、まるで鷲のように鋭い黒々とした目でフロレンツ第一皇子を睨み付けた。
「兄上はオリーヴィアが首謀者であったと述べましたが、それは明確に誤りです」
「オリーヴィア自身がそう頷いたというのにか」
「オリーヴィアは肯定も否定もしておりません。彼女はただ、自身が“人買いに売られた身であったため騒がせた”と申しただけです。第一、彼女が養父――アーベラインを庇っていることは明白ではありませんか。」
コツ、とヴィルフリートは一歩前に出る。オリーヴィアの額はその振動を受け取った。
「オリーヴィアが首謀者であったというのなら、アーベラインは当初からそう述べればよかった。しかし散々に言い訳を連ね、そのどれも通らぬと分かって初めてオリーヴィアが首謀者であったなどと喚いたのです。オリーヴィアは話を合わせて黙っているのでしょう」
「アーベライン自身がオリーヴィアを庇っているとはなぜ考えない」
「今ここではオリーヴィアの首と引き換えに自分を助けよと懇願しているのにですか? 矛盾しているのでなければ二重人格でしょうな。そもそも、この場においてアーベラインの話を聞こうというのが間違いです」
そもそも、オリーヴィアの出自が判明した原因は、当時オリーヴィアを売った人買いがアーベラインを強請り始めたことにあった。そのネタはもちろん「フロレンツ第一皇子の婚約者が実の娘でないとばらされたらお前は終わりだぞ」というもの。そうしてアーベライン侯爵は口止め料を払い続けていた。
しかし徐々にその要求がエスカレートし、アーベライン侯爵がそれを突っぱねた結果、人買いは「十年近く前、銀髪にオレンジの目の少女をアーベライン侯爵に売った」と暴露した。
もともとアーベライン侯爵には不埒な噂が多かったうえ、ここ数年その人買いは妙に羽振りがよかったこと(アーベライン侯爵から巻き上げた金だろう)、オリーヴィアの容姿がアーベライン家の誰とも似ても似つかぬものであったこと、その他諸々の事情が勘案され、その疑惑は決定的なものとなった。
「ゆえに、最早質疑の余地はありません」
事の顛末を説明し、ヴィルフリートはそう締めくくった。
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