思い出にはならない

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思い出にはならない

 その後、僕はあみを思い出にしようと努力したけれどできず、だからと言ってまた手紙を書いて送る勇気もなかった。  季節が巡り、寒さを感じるようになると僕はあみに手紙を書こうとやっと思った。 『またあの湖に行こう。同じ本屋で待ち合わせよう』  今思えば馬鹿な考えだったが、必ずあみが返事をくれ、来てくれると信じていたのだ。自分の電話番号やメアドなども全て書いて、手紙を送った。  やっと自分があみを好きで忘れられないということを受け入れた。  彼女のそばにいたい。一年かかったけど、きっとあみも同じ気持ちだと信じて疑わなかった。  あみに送ったその手紙は、しばらくして”宛先不明”という印をつけて戻ってきた。あの日からたった一年しか経っていないのに、あみはもうそこには住んでいなかった。  何で自分の気持ちを確かめるのにこんなに待つ必要があったのだろう。僕は自分の愚かさと勇気の無さを嘆いたが、何も取り戻す術がなかった。  あみと僕が繋がっていた細い線は、あまりにもあっけなく切れてしまった。  それから僕は、二人でいる風景、あみがいる風景を探すようにして写真を撮るようになった。そんなものはあの日にしかなかったけれど、どこかにそれがあるような気がして。 「これ、いい写真だね。テヒョン君が撮ったのか?」  撮影の時に自分の撮った写真を整理していたら、カメラマンに声を掛けられた。 「はい、風景を撮るのが好きで。趣味ですけど」 「今度、カメラマン仲間で集まるんだけど、来る?」  僕はその会に呼んでもらった。撮影を仕事にしている人たちの話はとても面白くて刺激があった。やっぱり撮られるより、撮る方が好きだな。  何度かその会に参加したときにこう言われた。 「テヒョン君、展示会一緒にやってみない?」  初めて僕の写真を公に人に見てもらうことになった。来場者は多くはない人数だったけど、見てくれた人がいたのは本当に嬉しかった。  その時に、風景の写真と一緒に気に入っているあみの写真も展示の中に入れた。  前髪と閉じた瞼、あの時の写真。僕が見たあみの、そのままを切り取れた写真だった。 「この写真とても好きです」  そう言ってくれる人が多かったこの写真は、いつの間にか僕の代表作となっていた。
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