少女のようなその子

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 彼女が本を買っている間に、翻訳アプリを開いた。まだ彼女が行くとも言っていないのに、僕は彼女は絶対断ることは無いとよくわからない自信を持っていた。  そのぐらい自分の思い付きが素晴らしいものだと勝手に思っていた。  いや、思い込もうとしていたのかもしれない。大切な人を亡くした後の寂しい一人旅だったから。 ”良かったら湖に連れて行ってもらませんか。僕の名前はテヒョンです”  戻ってきた彼女に翻訳アプリを見せた。  びっくりしたようにうなずくと、彼女もスマホを取り出し何か入力している。 ”私はあみと言います。湖はありますが、寒いですよ”  あ・み。可愛い響きの名前だな。 ”流氷が見たいです”  僕は自分の希望を入力して見せた。  あみが難しそうな顔をする。 ”流氷の観れる場所は、ここから300km以上あります。無理です”  困ったような顔で彼女は僕を見上げた。驚いたり、眉間に皺を寄せたり、今度は眉を下げてみたり。くるくる変わる表情が何故か僕をホッとさせる。  何を心配してるのかな。君にお金を出させるつもりはないよ? 安心して。 ”大丈夫です。お金も時間も心配ありません” と返事をした。  今思えば、あみの都合も考えずかなり強引だったと思う。 ”私は旅行について素人なので、旅行会社のツアーに参加するのが良いと思います” 「そんなこと言わないで。僕は君と行きたいんだ」  アプリに入力した文字を見せた。 ”君と二人で行きたいです”  彼女を本屋から連れ出して、滞在しているホテルに連れて行った。 『本読んでちょっと待ってて』  その間に僕はフロントに行ってレンタカーの調達と湖畔の宿を予約した。 『凍る湖ってありますか? そちらに二名で二泊ほどしたいんですが。できれば良い部屋で』 『ではこちらはいかがでしょうか? 弊社の系列の宿がございますので確認いたします』  フロントマンは僕の意図を察しすぐに調べてくれた。 『一棟借りの宿が空いておりましたので予約を入れました。こちらになります』  そこのパンフレットを見せてくれる。  うん。良い所だ。  荷物を取って、レンタカーの鍵をもらい、あみの待っているラウンジに急ぐ。あみは本に夢中になっていて、図書館で好きな本に食いついて読む子供みたいだった。不思議な子だ。大人になったり子供になったり。 「あみ、お待たせ。行こうか」  彼女の目の前に車の鍵をぶら下げてみせた。ぽかん、と呆れたような驚いたような顔の彼女の手を取り、車まで移動した。 ”本当に、湖に行くんですか?どこまで?” ”本当です。一緒に行きましょう”  ここだよ、とフロントからもらった簡易的な地図に赤く丸がしてある場所を指し示した。 300km以上先の湖。 彼女は溜息をつきながら、こう入力した。 ”わかりました。じゃあ最初は私が運転します”  彼女は車の鍵を受け取った。 「・・・・・・・・?『じゃあしゅぱーつ!』」 「Yeah~!」   凍った湖。困った人に優しくて不思議な雰囲気の女の子との突然の旅。それが自分の人生を変えてしまうなんて思ってもみなかった。
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