初めてなのに懐かしい

1/2

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

初めてなのに懐かしい

 市街地を抜け、幹線道路を走る。だんだんと自然が多く見えてきた。 「すごいねあの木。僕の国では見たことないや」  思わず独り言が漏れる。 「…・・・・・・・・・?」  彼女が何か言ってくれたけど、言葉が違うから、お互いに意味は分からない。でも、何か風景に反応する僕に対して言ってくれてるのはわかった。  意味は分からないのに、何となく通じるって面白いな。 『何か飲みますか?』 『うん』  英語であみが訪ねてくれ、僕が返事をすると、しばらく走った道沿いにあったコンビニに車を停めてくれた。  コンビニなのにとても広い駐車場。向こうに広がる畑と山々。風景を見せてくれようとしてここに停めてくれたみたいだ。  雪の風景を眺めながら車を降りた。  チユを思い出して胸が痛んだ。何故雪山なんかに行ったんだ。  あみが飲み物やお菓子を抱えてレジに持っていくのが見えた。すぐ側に行く。 「僕が、買います」  日本語で言って彼女を後ろに引っ張った。僕が無理に誘ったんだから、こういうのは払わせてよ。 「・・・・!・・・・・・」  あみが慌てて財布を開けながら何か言う。多分自分で払うとか言ってるな。遠慮しすぎだ。財布を出さない子だっているのに。 「ありがとうございます、・・・・・・・・・・・」  コンビニから出てあみが訴えるような目で言ってきた。いいんだよ。君との旅行に不自由しないくらいは稼いでるし、十代の時に遺産相続したから。遠慮しなくても。 「あー、……おれい?です」  彼女の頭をポンポンとして片言の日本語で伝えた。寒いから、手のひらにすぐにあみの体温が伝わってくる。  車に戻って、買った飲み物を飲むことにした。僕はコーヒーを飲む為にマスクを外した。 「!!!!!!」  あみが僕の顔を見てあっけに取られている。その顔が面白くて可愛らしくて僕は笑ってしまった。僕はこの外見で得も損もしてきた。人を見抜くのにわかりやすい機能が僕についているようなものだ。 「はぁー・・・・・・・・・・・・・~」  あみはグニャリとハンドルにもたれかかって、溜息交じりに大きな声で何か言った。僕の顔を見ても全く僕に媚を売らない。そういう女性は少ないから、あみの様子が好ましく思えた。 「あー、・・・・?…☆・・!」  あみが何か嘆いている。僕のことを放ったらかして自分の世界に入る子なんて今までいなかった。彼女はまるで、家族の前のように素で振る舞う。 「あみって本当に面白いね」  その様子がツボに入って笑ってしまう。 「・・・・・・・・・」  あみの機嫌を損ねたようで、ほっぺたを膨らませて拗ねた様子を見せる。 「ごめんごめん。悪気は無いんだ。何か大変な事思い出したんだね」  なだめるようにあみの頭をポンポンと撫でた。そうだ、翻訳アプリを使って会話してみよう。 ”あみさんは学生?” ”そうです。大学3年生です” ”テヒョンさんは何をしている人なんですか?  仕事柄、いきなり正直に職業をいうリスクも充分に知っていたから、 ”会社員です” と答えた。  そうは見えない、という顔をされたけど、あみからそれ以上の詮索はなかった。  あみが車の中でかける曲は僕が知っているものもあって、一緒に歌ったりした。彼女は鈴が鳴るような声で歌ったかと思えば、治安悪くガナったりして振り幅が大きくて面食らったけど、それが楽しかった。  初めて会った人とノリノリで車の中で歌うとか中々ない出来事だな、と思った。気取らない子との旅行。良い思い出になりそうだ。  散々歌って、二度目のコンビニで買ったコーヒーを口にしていると、あみが溜息をついた。 『どうしたの?』  彼女はもどかしそうに僕を見て、車を路肩に停めた。ハザードを点滅させると、英語で話し出そうとしたものの、上手く伝えられないと思ったのかスマホを取り出し、翻訳アプリを入力し始めた。 ”あと二時間ほどで湖に着きますが、その頃には日が暮れています。真っ暗です”  そうだ、宿の事を言っていなかった。 『ここ予約してあるよ』 と返事をする。 『えっ?! 予約って??』  パンフレットを見せた。目を白黒させる彼女のスマホを手から取り、僕も翻訳アプリで答えた。 ”僕が誘ったから、泊まる場所は任せてください。運転かわります” ”ありがとうございます”  一つのスマホを見ながら、お互いの母国語でやり取りするとなんだか不思議な気分だ。何となく寄る辺なくて、でも寄り添っている感じ。スマホを覗きこむあみからは、小さい時に友達と一緒にいた時のような匂いがした。何故この子は、僕に懐かしい感じを憶えさせるのだろう。  車のナビゲーションに住所を入れてもらうと、あみと運転を替わり、僕はナビの誘導に従った。 『運転ありがとう。疲れただろうし寝ていいよ』  ううん、起きてる!という風に頑張っていたけど、彼女はいつのまにか寝息を立てていた。  車が揺れる度に頭がふらふらして、小さな子供みたいだった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加