のみかい、というパーティー

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のみかい、というパーティー

 あみがフロントに電話をしている。お酒でも頼んでいるのだろうか。 『テヒョンさん、先にお風呂入ってきて! ”飲み会”するから』 「の・み・かい・・・?」 『そう、パーティーだよ』  彼女は僕が急にあんなことを言ったから気を遣ってくれているんだな。  言われたとおりに浴室へ行く。冷え切った体に風呂の湯が温かい。外の景色が見える大きな窓からは、昇ってきた月の光が差していた。  さっきの僕はどうかしていた。我が儘を言ってついてきてもらった子に自分の寂しさをぶつけるなんて。失礼もいい所だ。  ――気持ちを切り替えよう。  風呂を上がると、飲み会と言う名のパーティーの準備が済んでいた。  小さなローテーブルにいっぱいお酒が並んでいる。二人なのにどれだけ飲むつもりなんだろう。道すがら、コンビニで買ったお菓子も並んでいて、彼女の部屋に遊びに来たみたいだ。僕は家族がいなくなるまでの子供の頃を思い出して、心が和んだ。 『私、お風呂入ってきます。どうぞ先に飲んでて』  あみがそう言って浴室に向かう。  ミネラルウォーターを飲みながら、あみを待った。いつもならこういう時はスマホを触るのに、それもしたくなかった。必ず戻ってくる人を待つ、というのは嬉しいものなのだと、その時気づいた。 「カンパーイ!」  スパークリングワインの入ったグラスを掲げながらあみが明るい声を出した。あまりにも美味しそうに飲む姿は、湖畔で見せたさっきの寂しそうな表情の欠片もない。あみはスマホを持たずに直接話してみることに決めたようだった。どうせ二人なのだから、単語があれば何となく通じる。 『私、夜は眠れます。テヒョンさん眠れないの?』 『たまにね』  全然たまにじゃないけど。チユが亡くなってからずっと眠りが浅い。 『大人は大変ですね』  社会人は大変でしょう、という感じだった。君も成人してるから大人なんだよ、と言ってみようかと思ったけど、彼女にそれをいうのは意地悪な気がして止めた。 『そうだね』  しばらく考えて、もどかしそうにあみがスマホの画面を開いた。 ”あなたの事情はよく分かりませんが、テヒョンさんに元気出してもらいたいです。私にできることはありますか?” ”ありがとう”  やっぱりこの子はすごくいい子なんだ。  あみがいい子だから断れないだろうと思って、僕はその優しさにつけ込んで連れてきたんだ。僕はそんな厭らしい性格だったろうか。自分の醜いところが見えてうんざりしてきた。  一つぐらい正直に自分の事を話してみようか。 『失恋ってしたことある?』  あみはそれを聞くと、えっ?という顔をした後に、微妙な顔をした。 『……つい最近失恋したばっかりです。一週間前に』 『そうなんだ……同じだね』  失恋仲間か。だから寂しそうな顔を時折していたのか。こんな素直なあみが失恋するなんてどんな奴だったんだろう。 『あみ、その彼ってどんな人だったの?』  うーん、と考える表情の後に、あみが翻訳アプリを入力し始めた。 ”優しくて男らしい人だと思ってたけど、別の女の子とキスしてた。私は人を見る目が無いみたい”  告白して振られたどころか、彼氏に浮気されたのか。僕はどういう表情をしたらいいのかわからなかった。自分が思うよりも、彼女は年相応に男とも付き合っている、普通の大学生の女の子だとわかったから。 ”グループチャットで、彼とその子のキス写真が送られてきたの。酷い話だよね。でも、そういう人だとわかって良かった”  学生ならよくあることなのかもしれないけど、この立場になったらいたたまれないな。  あみが私は話したよ?という風に聞いてくる。 『テヒョンさんは?』  僕は微笑んで誤魔化した。チユの話も楽しいものではない。少し酔っていた僕は感情を溢れさせてしまいそうで怖かった。 「・・・・・!・・・・・・・!」  言わないの?ずるーい、という風にあみが何か言っている。この予測はきっと外れてないと思う。 「僕の好きな人が別の男と結婚して、新婚旅行で死んじゃったんだ」  あみにわからない母国語で言った。悲しい彼女にまた悲しい話を聞かせるのは酷い事だと思って。 あみは立ち上がり、透明な酒を2杯注いできた。 「・・・・・・・・・・」  どちらか選べと言っているようだ。少しずつ舐めてみると、焼酎と日本酒のようだった。  悩んで、焼酎を受け取った。
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