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この子は僕の
のんびりと外を見ながら飲んでいると、あみが突然笑い始めた。だんだん酔いが回ってきたのかもしれない。
「大丈夫? 酔っちゃった?」
ペットボトルからグラスに水を注ぎ、渡そうとするが彼女の笑いは止まらない。
『だって、だって…』
英語で理由を言おうとしてるけど、言葉になっていなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・…」
何か言ったので顔を見ると、あみは笑いながら泣き出していた。
どうしたんだ。
『彼が、好きだったの』
絞り出すようにそれだけ言って、あみは顔を覆って泣き続けた。
「そんな男だとわかってよかったじゃないか。君は悪くないよ」
慰めるように彼女の頭を撫でた。
胸の奥が重たくて熱い。これは何だろう。
赤くてドロッとしたマグマのようなものが胸の中に広がった瞬間に自覚したのは、彼女が好きだったという男に対して猛烈に嫉妬している自分だった。
あみのことを今日知ったばかりで、その男存在など今さっき聞かされたばかりだ。嫉妬する理由などどこにもない。
なのに、浮気をした男を好きだったと泣く彼女の姿を見るのが辛い。あみは、今目の前にいる僕のことじゃなくて浮気した彼氏を思い出して泣いている。
そんな男のことじゃなくて、僕のことを見てくれ。
今まで、誰に対してもそう思ったことなど無かった。チユにすら。
「・・・…ありがとう。・・大丈夫!」
日本語で大丈夫、と言ってあみは涙を拭いて笑った。
君にそんな顔をさせる男って誰なんだ? そんなに素敵な奴だった? 浮気をするような男が。
「僕のこと見て。どんな奴だったの? 教えてよ」
きっと酔っているからこんなことが言えたんだと思う。
あみの肩を掴んで、顔を覗き込んだ。あみが僕の国の言葉がわからなくてよかったと思った。知らない男に嫉妬して彼女にこんなことを言うなんて、身勝手もいいところだ。
彼女は涙でぐちゃぐちゃになった顔で僕を見ている。こんなに目を真っ赤にして泣きはらして、君はどれだけの夜を過ごしてきたんだ。
僕と同じように、一人で。
全然大丈夫じゃないくせに、僕を気遣って笑う子。
「だいじょぶ……?……じゃ、ない、です」
日本語でうまく伝わったかどうかわからない。でももう言葉が伝わっていてもそうでなくてもどちらでも良かった。
あみの頬に手を触れた瞬間思った。この子は僕のものだ。
印をつけるように、唇をふさいだ。
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